TiZ(前)


 近未来の東京。自然破壊が進む中、あらゆる自然を再現したドームが作られる。それがゲームのタイトルになっているTiZ(東京昆虫動物園)、滅びかけている昆虫の楽園です。主人公の少年は、あることでカブトムシに変身してしまい、TiZの中を探索するはめに。その過程で様々な昆虫と知り合い、生命の不思議や、生きることの意味を理解していく。が、TiZは新たな開発の名の下に廃園が決定しており、そうなると主人公が知り合い友達になった昆虫たちは死んで行くこととなる。そのことを主人公はまだ知らない‥‥。
 濃いストーリーやね。ゲームなんかしないで、ストーリーだけを追ってもいい気分。けどそれなら小説で充分。なぜこれはゲームとしてここにあるのか?
 今簡単に触れたストーリーラインからすぐに理解できるように、このソフトには基調テーマがしっかりとある。露骨すぎると言ってもええでしょう。
 けど、露骨であっても、押し付けようとはしない姿勢でありたい。
 たぶんそれが、このストーリーを小説ではなくゲームに仕立てた理由。
 小説のように一本道のストーリーを読者としてただ追うのやなく、自らの意志でその舞台に参加してほしいと考えたとき、「TiZ」の作り手たちはTVゲームこそ絶好のメディアやと判断したということやろうね。
そして数多あるジャンルから選ばれたのはAVG(アドベンチャーゲーム)。

1996/08/28


TiZ(後)

 AVGを一言で定義するとしたら、未知を既知にする過程を楽しむジャンル。
 行ける場所ならどんな順でどこへ行ってもいい。人がいれば話を聞き、ドアがあれば開け、開かなければ開けるための鍵を探す。そうこうして、既知の部分が増えるほど新たな未知の世界が広がり、そこをまた既知にするために探索していく。
 このソフトの場合やと、カブトムシになった少年を操作しながらTiZの中を探索し、様々な昆虫と出会うことでプレイヤーは、昆虫の視点から世界を眺め、考え、生命と生命の関係性についての様々なことを、自分にとって未知なものから既知なものへと変えていくこととなる。
 それって押し付けになるとうざったい。だからそうでないと思わせるための工夫は大事。
 「TiZ」は、セリフは一切文字表示せず、会話で行うことでそこをクリアしている。相手がしゃべった後、主人公の番。返事は四つ用意されていて、プレイヤーはそれらを聞いて、どれにするかを選択。つまり選択責任はプレイヤーにある。これって現実に近い。私たちはいつも頭の中で複数の返事を思い浮かべその中からひとつを選んでいるのやから。
 ぶっちゃけた話、このソフトがたどりつく結論めいた地点は「ジャングル大帝」から「ナウシカ」まで、すでに語り尽くされた所。けど、TVゲームでならそれをどう表現できるのかへのチャレンジ精神はとても美しい。

1996/09/04