ティルズ オブ ファンタジア(前)

 このソフト、発売日は昨年の一二月一五日。「ああ、クリスマスに的を絞ったんやな」と考えるあなたは、子ども向け商品に関して多少は詳しい。
 一方、「えらい無茶なときに出したんやな」と思ったあなたは、この業界の通。
 何故か。
 一二月九日にRPGの大御所様、「ドラゴンクエスト 」が発売されたからやね。一万円前後するソフトを何本も買うのは難しい子どもたちが一二月にRPGでどれを買うかと想像すれば、それはもう「ドラゴンクエスト 」であろう(一二月だけで二三〇万本出荷!)ことは、誰にも予測が出来る事態であり、そんなヤバイ時期にせっかく作った作品をリリースしたくないのは当然でしょう。
 要するに「ティルズ オブ ファンタジア」の一五日発売は暴挙に等しかったわけやね。だってその一週間前にもう、何百万もの子どもたちは一万円を「ドラゴンクエスト 」に費やしていたのやから。
 この暴挙の結果はどうであったか。作られたロット数が少なかったのかもしれませんが、たちまち完売。発売4日後に買いに出掛けた私はアホでした。たまに顔を出す中古屋でもめったに見かけない。まるで、買ったプレイヤーたちがプレイを終わっても手放さず大切に、自分の部屋のアルバムにしまい込んだような状況。
 これまでにもそんなソフトはありましたが、久々の体験でした。

1996/05/08


ティルズ オブ ファンタジア(後)

 しばらく市場から姿を消していたこのソフトが再販されたのが二月。幸い私は手に入れましたが、二日ほどでこれも完売。普通、発売から数カ月もたつと相当の値崩れを起こすのですが、「ティルズ」は今でも中古で八千円前後の値をつけています。買い取り値段も六千円前後。つまり、めったに見かけることは出来ない、見かけたプレイヤーが即に買ってしまっているから、そうした買値と売値なんですね。
 このソフト、どこにそんな魅力があるのやろうか?
 設定、ストーリー、仕掛け、そのどれを見ても、さして新しくはない。オーソドックスという言葉が相応しい出来。けど、このオーソドックスってのがくせ者。近ごろ目新しさを狙ったものが多い中、これはホッとするんやね。原点に久しぶりに出会ったようで。
 ところが容量を見ると、なんと四二メガ。スーファミRPG史上最大です。オーソドックスやのになんでや?
 理由は、ささいな部分をていねいに作っているからなんです。例えば池のほとりを主人公たちが歩くと、水面にはちゃんと彼らの姿が揺れながら写っているという風にね。他のソフトが容量を見栄えのするハデハデな部分に費やしている昨今、このていねいさは嬉しい。
 たぶんプレイヤーたちはそのていねいさに引かれて、手放さないのやと思うね。
 私は、次のソフトを買う金欲しさに、売ってしまった。
 ‥‥、すまん。

1996/05/15