バイオハザード(前)

 このソフトを今年のベストワンに推す専門家は多いでしょう。無名であったけれど、プレビューでの評価は驚愕に近く、書き手の興奮が伝わってくるものが多かったからか、初版は即日完売。現在八十数万本。それでも過去のビッグタイトルを振り返れば、カワイイ数。例えば「ドラクエ 」は値段が安室のCDの三倍もするにもかかわらず、安室のCDと同じ数だけ売れた。「バイオ」がすごいのは、三月の発売から半年以上を過ぎた現在もベストテン内外をうろうろしていること。腰が強い。これは「バイオ」がブランドとして売れているのではなく、中味の評判に支えられていることを示しています。ブームではなく現象なのやね。その勢いはアメリカまで波及し、彼の地でのセールスランキングのトップを数週間ゲット。
 「バイオ」、恐るべし。
 ある特殊部隊が消息を絶つ。調査のため、主人公の属する別の特殊部隊がその場所へ派遣される。突如モンスターに襲われた隊員たちは、近くにあった館へと逃げ込む。そのとたん扉は閉ざされ、彼らは内部に閉じ込められる。そして、館の中にもモンスターが‥‥。なぜモンスターは発生したのか、ここから抜け出すことはできるのか、生き延びることはできるのか。恐怖の探索が今始まる。
 という設定は、さして目新しくも斬新でもない。
 AVG(アドベンチャーゲーム)がアドベンチャーするための仕掛けにすぎないんやね。 「バイオ」とは何物なのか?

1996/10/23


バイオハザード(後)

 「バイオ」が属するAVGは、アイデンティティが明確ではない。ロープレは主人公たちを成長させてなんぼ。シューティングは撃ちまくってなんぼ。格闘技は早いコマンド入力でなんぼ。AVGの場合、そういうものがない。以前、未知を既知にする過程を楽しむものとAVGを定義したけど、それってとてもあいまいやよね。けど、そうとしか言いようがない。
 「バイオ」の衝撃とは、AVGがジャンルとしてあいまいなのは、ジャンルを形成するほどの器やないからではなく、ジャンルを超えて、AVGこそ究極のTVゲームの形態であるからなのかもしれない可能性を具現化したこと。つまり、TVゲームの様々なジャンルのおもろい部分を何もかも節操なくぶちこんでしまうために、あいまいになってるのや、と宣言し、それを見事にゲームとして成立させてしまった。シューティングもアクションもロープレもパズルもホラーもシミュレーションもみんなこのゲームの中にバランスよく配合されている。もちろん過去のAVGの中でもそうした作品が全くなかったわけではないけど、「バイオ」ほどあっけらかんと臆面もなくそれを実現したものはない。
 「バイオ」、恐るべし。
 けど、「バイオ」の奇跡は決して計算ずくやなく、むしろもっと素朴な欲望、例えば、「ハリウッドのかっこいい映画の主人公を自由に動かせたら楽しいやろうな」なんてところから発想されているはず。つまりプレーヤー以上に作り手が楽しんでいる。それっていいよね。

1996/10/30