ロバのシルベスタ−と まほうのこいし

ウィリアム・スタイグ/作
せたていじ/訳 評論社 1975

           
         
         
         
         
         
         
         
    

 どんなふうに愛されたら、人って気がすむの? という質問の答えになる一冊でしょう。
 ロバのシルベスタ−は優しい両親に愛されて、平和に楽しく暮らしていました。
 ところが、あるとき野原で魔法の小石を手にしている時にバッタリとオオカミに会い、思わず石になりたい! と念じてしまいました。
 石になったシルベスタ−から魔法の小石はころころところがっていき、ほんの何十センチかなのに、シルベスタ−にはもう手が届かなくなってしまったのです。
 帰ってこないシルベスタ−に、両親は泣きました。捜索願いも出しました。涙にあけくれした一年でした。そうしてシルベスタ−のほうも、始めは帰りたいと思ったのですが、雨風にさらされているうちにだんだん考えなくなり(だって考えるとつらいでしょ)中味も石っぽくなりかけていったのです。子どものほうが、柔軟で適応力があります。裏を返せば大人のほうがしぶといともいえるでしょう。シルベスタ−は感じるのをやめられても、両親は一年かそこらじゃ忘れられなかったの。そうして気分転換にきたピクニックで、なんと二人はシルベスタ−の上にお弁当を広げ、そういえば、あの子は石が好きだったわね、といって魔法の小石をのせてくれたのです。もちろんシルベスタ−を思い出して涙にくれてね。
 ホラ、バカ、気がつけ、シルベスタ−! 石なんかやってる場合じゃない!
 でね、三人は喜びの涙にくれて抱きあいます。
 子どもはね、生きてそこにいてくれるだけで、値うちがあるんです。シルベスタ−のように愛されるのが……いまの子の“夢”です。ホントだよ!(赤木かん子
『絵本・子どもの本 総解説』(第四版 自由国民社 2000)
テキストファイル化塩野 裕子



▼スタイグは三冊目に出したこの絵本でコルデコット賞を受賞した。ところで、この作品は、警官が豚として描かれていた為に、イリノイ州警察連盟は、こんな書簡を全警官に送った。それは「…幼児たちの心に、警官は良き友であるというより豚なのだという考えを確実に植えつけるものである。」そして図書館に置かないよう指導をするように、というものだった。これに対してアメリカ図書館連盟は、こうした動きは検閲だと強く反発したという(「子どもの本の八人」ジョナサン・コット/著、鈴木晶/訳、晶文社より)。