夜の鳥・ 少年ヨアキム

トールモー・ハウゲン作
山口卓文訳 福武文庫 1975 絶版

           
         
         
         
         
         
         
    
 これは今手に入らないので、採りあげるのはどうかとも思いましたが、私にとって大事な物語なので、書いておきます。
 『夜の鳥』と『少年ヨアキム』の二部作。両親は学生結婚をしたのですが、まず母親が休学して働き、生計を立て、その間に父親が卒業して職に就き、今度は替わって母親が大学に戻るという生活設計を立てていました。そして父親がやっと卒業。彼は教師になります。けれど、なったとたん気づく。自分は教師になりたくなかったと。で、就任一日目に、不登校になる。大人になりきれない情けない父親、と、世間はみなすでしょう。
 彼が働けないものですから母親は大学に戻れず仕事に就いたまま。その代わり父親は家事を任されるのですが、精神的に追いつめられているから出来ず、いつもふらりと町にさまよい出ている。
 勉強に戻れない。家庭生活も維持できない。当然母親の苛立ちは日々募る。夫が悩んでいるのはわかっているけれど・・・。
 そんな両親だからヨアキムは不安で、子供部屋で一人寝ることができない。夜中にタンスの中で鳥の羽ばたきが聞こえてしまって、両親を起こし二人の寝室で眠りたがる。
 すごくクラーイ話のよう。でもこの物語、父親が自分がなぜこうなってしまったかを息子にちゃんと話すんですね。自分は男として妻子を養っていかなければならないというしつけをされてきた。男らしく生きろを言われてきた。だからずっと無理してそうしようとしてきた。教師になろうと思ったのもなりたかったからではない。本当は自分はそんなタイプではなかったんだって。それを息子に謝りつつ、でもぼくは君の父親であることに変わりはないんだって。
 これ、25年前の作品ですよ。なのにここまで、言えている。親に与えられてしまっている権力を放棄している。すごいよね。
 そして、それでも両親は別れてしまうしかないところまで2部では書いてます。(ひこ・田中)
TRC児童文学新刊展示室通信2000.12