夜行バスにのって

ウルフ・スタルク

遠藤美紀訳 偕成社1994/1997

           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 『しろくまたちのダンス』で、父と息子を見事に描いた、スタルクの最新訳。今回も父と息子のお話。
 シクステンのとうさんは夜行バスの運転手。とうさんのことが大好きなシクステンだけど、一人の夜はもっと好き。というのは、
 「かあさんが家を出て再婚してしまってから、父さんにはシクステンしかいませんでした。だけど、だれかの、たった一つのものでいることは、そんなにかんたんなことではありません」(44)。
 父さんはしょちゅう仕事の最中に電話を掛けてくるし、やっと買ってくれた自転車は安全だからという理由で、なんと女の子用!それに、日常生活を気にしなくなったのも問題。
 TVは壊れたまんまだし、洗濯機も使えない。
 「きれいな服がないのです(略)。洗濯機がこわれてから、シクステンの夏の服は底をついてしまいました。父さんは修理をする気がないのです。母さんが出ていってから、父さんはいろんなものを修理する気力をなくしているのです」(13)。
 だから、夏なのにシクステンはセーターを来て学校に行くしかなかったり。
 このままではいけない!
 年上の友人ヨンテと共にシクステンは、父さんにガールフレンドを見つけようとしますが…。
 「いまのままで、うまくいってるじゃないか。父さんは、ほかにはだれもいらないよ。おまえがいるからさ」(106)。
 やれやれ。
 離婚を経験した母親が娘に依存してしまう事例がありますが、これはその父息子版。一見断絶親子みたいだけど、全然反対。お互いの思いやる心が少しズレているだけ。
 そこをユーモアで描くスタルクの目線の確かさには感心します。
 父親よりも現実状況が見えているシクステンがなんとも素敵。(ひこ・田中 )
メールマガジン3号1998/03/25