まよなかのたたかい

ディエリー・テデュー作/レミ・クールジョン絵

おかべりか訳 フレーベル館 1996

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 絵本らしくない大げさなタイトルである。タイトルにひかれて手にとると、これがなんと一匹の蚊と少年の攻防戦なのだ。
 たった一匹の蚊のために寝不足になった経験はだれにでもある。なーんだばかばかしいと思っても、もうそのときは、先を読まずにはいられなくなる。
 さあ、この少年はどうやって敵を撃退するのか。パチンと一発、うまく仕とめることができるだろうか?  
 ちからいっぱい ひっぱたく!  
 さされたあとでは おそすぎる。  
 こんどこそはと またたたく!  
 あいつはとっくに にげたあと。  
 じぶんでじぶんを ひっぱたく!  
 そのうちまたもや さされてる。  
 あいつはむきずで わらってる。
 あの『よい子への道』の、おかべりかの訳は、盛り上がってくると七五調になる。少年に同情しつつも、読者は高みの見物の気楽さで、「やれやれーっ!」という気分になり、ついには蚊のほうをヒイキしている自分に気づく。
 これはめずらしく、フランス生まれの絵本である。大胆なタッチで、しかし、けっこう細かいところまで気配りのきいた絵と構成には、子供たちをくり返し楽しませるだけの力がある、と思う。
 ただし、帯の「子どもたちの日常を、鋭い視線でユーモラスに描く」という惹句はマト外れである。(斎藤次郎)
産経新聞 1996/08023