ママ、ママ、おなかがいたいよ

レミー・チヤーリップとバートン・サプリー作・絵

つぼいいくみ訳/福音館書

           
         
         
         
         
         
         
    
 影を使った遊びといえば、影踏みと影絵があります。両方とも特別な道具がいらない、昔からの遊びです。影踏みは、夏の暑い日、日中やるのが一番面白い。影が短くなっているから、追いかける方も逃げる方も大変ですが、それだからこそ、スリルも満点です。影踏みが日中の遊びとすれば、夜の遊びは影絵です。影絵は停電の夜やキャンプの時のお楽しみ。くらがりの中、懐中電灯やろうそくのあかりに手をかざし、出来た影を 壁に映して、芝居が始まります。犬の鳴き声などまねしながら、即輿ストーリーの出来上り。キャンプの時は、テントの中を明るくし、演じる側はテントの中でポーズをとります。観客は暗い外から、テントの中でいろん なポーズをとる役者に拍手喝釆、というわけです。
 絵本にも影を効果的に使ったものがあります。「ママ、ママ、おなかがいたいよ」は、影絵芝居の面白さを使った絵本です。
 机の下にもぐりこんで、「だれかおたしのぼうしを みなかった?」と捜し物をするお母さんのそばで、おながぱんぱんにふくらんだ男の子が、「ママ、ママ、おなかがいたいよ。お医者さん呼んで」と言っている場面から物語は始まります。 往診にきたお医者様が、「こんな病気、みたことないぞ、一刻も早く入院だ!」と、坊やとお母さんを病院につれていくと、マリのように大きくふくらんだ男の子のおなかから、出てくる、出てくる、リンゴ、ボール、ろうそくがついたハースデーケーキがまるのまま、スパゲッティもお皿ごと、ソーセージもずるずるつながったまま、釣竿についたままのヒラメ……。 (もちろん、さっき探していたお母さんのぼうしも、坊やのお腹の中にありました。それも、ぺットのウサギと一緒に!)
 前のぺージでシルエットを見せて、次のぺージで色つきの絵をみせる。まるで、手品をみているようです。ありもしないことが目の前で起こるナンセンスの面白さ。観客は、次は何がでてくるかな、と期待にわくわくします。
 揚面が変わるたびに(坊やの家、お医者さんの家、外、病院) 背景に使う色が変えてあるので、文章で状況を説明されなくても、観客は今、自分がどの場所で起きている出来事をみているのか、すぐさまのみこめるという工夫も素敵です。
 この絵本をヒントに、家庭で、園で、学校で、自分たちだけの影絵芝居を作ってみてはいかがですか?(米田佳代子
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1995/5,6