ピーターとペーターの狭間で

青山南

本の雑誌社


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 英文解釈の問題をまえにして、直訳か意訳か、などと悩んでいる高校生諸君、ちょっと背のびして翻訳の裏話なんかどうです?
 ボキャブラリーの貧困な登場人物たちの連発する 'Hi' を先着順に「やあ」「おやっ」「なんだい」「よお」「へえ」「ケェッ」とし、最後の 'Hi' の合唱は「参ったね」にしたというエピソードで始まるこの本は、「ヘーッ」「ソウ」「オッカシイ」と思いながら、つい最後まで読まされてしまう素敵な本です。この話は「ボキャブラリーも豊かにさまざまな言葉を色あざやかに使うのも結構だけど、わずかな言葉をいとおしげに大事に使っているとすれば、よほどやつらの方が魅力的ではないのか」と続きます。ヤッタ! 'Oh, no' (ウッソォ)とか 'can't believe it' (またそんなこと言って)などを連発しながらのリチャード・ブローティガンとの会話もおもしろいし、 'The world According to Garp' という題名の訳の変遷を紹介した「ガープ戦史」も 'according to' という熟語の意味を考えるのによろしい。ちなみにその訳は『ガープの世界』『ガープ的世界の成り立ち』『ガープが世界を見れば』『世界、ガープ発』『ガープによる世界解釈』etc。どれが直訳で、どれが意訳で、どれが翻訳なんでしょね。
 本屋でみかけたら、ちょっとのぞいてみてほしい。偏差値が上がるとは絶対に思わないけど。(金原瑞人

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