ハングマン・ゲーム

 ジュリア・ジャーマン著
あかね書房 2003 一一〇〇円

           
         
         
         
         
         
         
    

 本書はいじめをテーマとしている。そうと最初から分かっていて読み始めるのは少々気持ちが重い。けれど、いじめの重さは重さのまま、それでいて、ひとすじの光を読後に残す。そこまでを見事に描く作品だ。

 舞台はイギリス。トービィは中学一年生だ。幼なじみのダニーが彼の学校に転校してくるところから物語は始まる。幼なじみであるなら、転校の知らせはグッドニュースと思えそうだが、第一章のタイトルは「最悪なニュース」。おとなはダニーのことを「マイペース」と片付けるけれど、学校で共に過ごす年頃の子にしてみれば、ダニーはダサく、まぬけ。音楽にもスポーツにもセンスなし、となる。なにをするにも時間がかかり、そのことを本人も自覚しているところが悲しい。トービィはけっしていじわるな少年ではない。「さりげなく」という度合いが、なぜダニーは出来ないのか、ジレンマをかかえるようなところもある。けれど、だからといって、ダニーの面倒をみるのはご免なのだ。彼には彼の謳歌したい学校生活がある。

 なるべく関わらないようにするトービィ。けれど徐々に、ダニーをいじめるニックらのグループの側に立つようになる。そのつもりはない、けれどなんとなくそっちへ軸足は入っていく。その間のトービィ、ダニーの心の揺れ、葛藤が生きている。いじめの主犯格ニックのも。そしてその間が、まさに「いじめ」が「いじめ」になっていく過程なのだ。

 教師や親たちの死角はどんな時どんなふうに生まれるのか。おとなに話すことと話さないことをより分けだす少年少女たち。この年齢の特徴も、本書に存在感を与えている。学習旅行先で起こる事件あたりからは、トービィの成長物語とも重なって読める。ラストに彼が選ぶ教室の席の意味が、それを象徴している。(木坂涼)