ぼくのローカル線

嵐山光三郎/写真−広田尚敬

山と渓谷社 1998


           
         
         
         
         
         
         
     
 「列車のガラス窓というのはじつは紙芝居の木枠……列車の窓を通して見る風景は、現実の風景でありつつも、夢の風景なのである」「人間にとって一番大切なのは、ローカル線の駅で列車を待つ時間の余裕である。この余白のなかに至上の心の王国が漂っている」
 これは、広田尚敬の写真と嵐山光三郎の文章とで構成された味わい深い一冊だ。最初に引用した箇所を読んでわかるように、嵐山光三郎のローカル線をみつめる目は鋭くあたたかい。とくに「ブルーの堅いシートの匂い、ほのかにやわらかくて背骨にコツンとあたる椅子の堅さ……」なんていわれると、その場の情景がありありと浮かびあがってくるではないか。
 広田尚敬の写真がまたいい。時を忘れてしまったかのような田舎の駅、高千穂橋梁をわたるブリキのおもちゃのような二両編成の列車、小さなプラットホームいっぱいに立って列車を待つ高校生たち、すべてがどこか幻想的で、それでいてしっかりと日常と結びついている。「ディスカバー・ジャパン」とかいう軽薄な視点からはけっしてみえなかった日本の風景である。
 またJR全線と全駅(四五〇〇駅)についての情報を満載した文庫本『駅』(ステーション倶楽部編・文芸春秋・上下各六五〇円)もでている。興味のある方はめくってみてください。色々な楽しみかたができます。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1998/11/20