超・ハーモニー

魚住直子作

講談社 1997

           
         
         
         
         
         
         
         
     
 神戸の小学生惨殺事件の容疑者が中学生だったことから、事件に絡めた現代の子どもたちや、学校や、家庭についてのさまざまな言説が、テレビや新聞雑誌にあふれかえっている。 
 事件の凶悪性を漫画やホラービデオの影響と関連付けるなどの短絡には笑ってしまうが、少年が書いたとされる文章から、その特異な心理を読み取ろうとするのにも違和感がある。 
 子どもの表現と心理が、それほどストレートに結びついたりするわけがない。凶暴さの陰に優しさがあり、優しさの裏に凶暴さが隠されていたりもするのだ。この作品は、大人には見えにくいそんな子どもたちのいらだちや微妙な心の動きを、有名中学に入学して間もない少年の目を通して繊細に浮かび上がらせてみせる。  七年前に家出したまま音信不通の、一まわり年の離れた少年の兄が突然女装して帰ってくるところから物語は始まる。 
 両親は動揺し、少年は級友にからかわれ、家庭でも学校でも、取り繕われていた日常性がガタガタに崩れていく。少年は、偽って友だちから金を巻き上げたり、たばこを吸ってみたり、フェンスのプランターをはじから叩き落とす。過重なストレスからバランスを失った少年の心に、「女になったにいちゃん」の作曲した奇妙なメロディーが微妙に作用していく。 
 現代の中学生が共通に抱える、重苦しく危うい同時代感覚を鋭くえぐってみせる、まさに今日的な作品だ。(野上暁)
産経新聞 1997/08/26