B.H.チェンバレンの
AINO FAIRY TALESについて

石澤 小枝子
梅花女子大学文学部紀要第32号 1998/12

           
         
         
         
         
         
         
     
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 長谷川弘文社で明治18年(1885)から出し始めたいわゆるちりめん本のJapanese Fairy Tale Series 20巻(21冊)(注1)は、その英語版だけでなく、独語版、仏語版、スペイン語版、ポルトガル版も含めよく知られるようになったが、この「日本昔噺シリ−ズ」の他にも長谷川武次郎はいくつか画期的な試みをしている。
 Japanese Fairy Tale Series,second seriesとして 1899年から企画されたちりめん本は、No.1がラフカディオ・ハ−ンの The Goblin Spider,No.2が ジェイムス夫人の The Wonderful Mallet, No.3が4年の間をおいて,同じくジェイムズ夫人の The Broken Images の3冊で、ここで中断しているが(注2)、後に長谷川はハ−ンのものを The Goblin Spider を含め、large sizeとして大判5冊のものにまとめている。英訳にハ−ンを起用したのはおそらくチェンバレンの推挽によるものと考えられる(注3)。ハ−ンの5冊本とは次のものである。 The boy who drew cats (1898), The Goblin Spider (1899),TheOld Woman who lost her Dumpling (1902), Chin-Chin Kobakama (1903),TheFountain of the Youth (1922).英譯者ラフカジヲ・ヘルンと記されているが、5冊とも画家名はない。瀬田貞二は3冊目の「団子をなくしたお婆さん」を見てその挿し絵を「渡辺省亭か」と言っているが(注4)、特定はできない。
 ハ−ンの5冊については、池田雅之が『おとぎの国の妖精たち』(注5)でこれらを「ハ−ンのミニマム エッセンシャル アンソロジ−」として第一章にその翻訳を載せているので多くの人の目に触れたことだろう。これはハ−ンの膨大な作品の中からその再話ものを「永遠の女性」と「妖精」という主題で編まれたものでその意図は面白い。関心を持たれた読者はぜひ文庫本だけでなく、挿し絵入りのちりめん本原本を手にされるようにと願う。1898年の「猫を描いた少年」の奥付には、英譯者ラフカジヲ・ヘルンの他に絵画印刷者小宮屋寿(注6)と文字印刷者柴田喜一の名が記されている。このことからもちりめん本を作る時には、まずちりめん紙に絵を印刷し、後に文字を活版で印刷したことが推察できる。瀬田貞二は『落穂ひろい』の「挿し絵本の先駆」の章で、明治中期以降に活躍した画家たちについて、師弟関係も含め十数人の名を挙げている(注7)。その中の小林永濯、永洗、鈴木華 、新井芳宗は長谷川弘文社のちりめん本に多くの挿し絵を描いている。
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