痛恨の昭和

石川光陽

岩波書店


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 『痛恨の昭和』という写真集が、いま静かに売れている。昭和初期から大戦、敗戦、戦後にかけての時代を、警視庁でカメラを担当していた石川光陽の写真と日記、その他の人々の証言などで再構成したものだ。どのページも突き刺すようなリアリティをもっており、「私自身極限の世界で生死の境を幾度となくかいくぐり、戦争というもののにおいをいやというほど肌で感じ、この目で見て一番よく知っている。それだけに私は戦争をきらい、心から憎むものである」という言葉が実感をもって迫ってくる。
 この写真集をみて、ぼくたちは「いまの日本は軍隊もなく平和でよかった」と胸をなでおろすことができるだろうか。いや、日本に軍隊がないと思っているのは世界中で日本人だけなのかもしれない。ウソだと思うなら岩波ジュニア新書の『ぼくたちの軍隊・・武装した日本を考える』(前田哲男・五八0円)を読んでみるといい。世界第三位の軍事費をもち、非核三原則をなしくずしにしている日本を世界がどのような目でみているかがよくわかるはずだ。日本はソ連のすぐそばに浮かぶアメリカの前哨基地であり、巨大空母(不沈空母ではない)なのだ。駆逐艦を護衛艦と呼び、軍隊を自衛隊と呼ぶのはもうやめよう。米ソ有事のときには横須賀から核巡航ミサイルが発射される心配だってあるのだ。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1989/02/12