トラベリング・パンツ

ブラッシェアーズ作・理論社

           
         
         
         
         
         
         
    

古今東西、少年少女や動物達が旅をする物語は数あれど、ジーンズが世界をかけめぐる物語があっただろうか。
『トラベリング・パンツ』には、タイトル通り「旅するパンツ(=ジーンズ)」が登場する。このジーンズは不思議な力を持っている。ジーンズをはいた人は誰でも最高にステキに見えてしまうのだ。
物語の主人公、レーナ、ブリジット、カルメン、ティビーの四人も、このジーンズに出会い、心を奪われてしまう。
彼女達は生まれる前から縁に結ばれていた親友同士。それが十六歳の誕生日を目前にして、初めて離れ離れの夏休みを過ごすことになってしまう。夏休みのあいだ、四人は変わらぬ友情の証として、ジーンズを順番にはき回すことを決める。
ジーンズをお供に、彼女達はそれぞれサウスカロライナやバハカリフォルニア、果てはギリシャの島へと旅をする。
ひと夏の冒険の主人公はジーンズではなく、あくまでも彼女達。恋や新しい友達に出会ったり、父親の再婚に悩んだり、死に直面したりと、それぞれひとりきりでさまざまな困難に立ち向かわなくてはならない。
それを支えてくれるのが、トラベリング・パンツだった。このジーンズをはくことで、彼女達は剣を得た闘士のように勇気を持つことができる。ジーンズに誓った変わらぬ友情を信じて、彼女達はすこし大人へ成長してゆく。
それぞれが体験した想い出はひとりひとりの胸にしまい、友達同士で共有できる事を大切に育んでいく。なんでも打ち明けることが友達の証なのではない。お互いを尊重し合える、それがほんとうの親友なのだと学んだ夏。
友情って素晴らしい!そう素直に信じさせてくれるこの物語は、本国アメリカでベストセラーとなった。世界十九カ国での翻訳が決定、ワーナーブラザーズが映画化権も獲得している。作者のアン・ブラッシェアーズはこの作品がデビュー作。まさにアメリカン・ドリームといえそうだ。
ジーンズはアメリカで生まれ、若さと自由のシンボルとして、世界中で愛され続けている。『トラベリング・パンツ』はどこからどこまでもアメリカらしい作品といえるのかもしれない。(磯野理香)「児童文芸」二〇〇二年十月・十一月号(隔月刊)日本児童文芸家協会発行

テキストファイル化・三原広美