東周英雄伝

鄭問

徳田隆訳・講談社

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 『東周英雄伝』、これは、すごい!
 今年のマンガ・劇画部門のベストワンは早くもこれに決まった!
 一月からなにをいうという声もあるだろうが、決まったものは決まったもので、しかたがない。十年にひとり、いや二十年にひとりの天才、いや異才、いや鬼才の登場といっていい。
 これは『週間コミックモーニング』に月一回読み切りの形で連載されている劇画で、作者は台湾の人。題材は中国のいわゆる春秋戦国時代(世界史で受験の人、覚えてますか?)の君主とそれを取りまく人々を描いたもの。それぞれのエピソードは、舌先三寸で世を渡った楚の国の策士として有名な張儀(蘇秦の合縦策に対して連衡策を主張した縦横家・・漢文で受験の人、覚えてますか?)をはじめとして、日本でもなじみの深いものが多い。
 物語そのものはおおよそ故事そのままだが、とにかく絵がすばらしい。人物、背景、戦闘場面、すべてが見事にきまっている。すさまじい筆さばき、大胆な構図、あざやかな色使い、省略の妙。手放しでほめるほかないのだが、なんといってもこの動きと迫力。もう、ほめる言葉がない。
 数年前から『コミックモーニング』は面白い。『沈黙の艦隊』『ああ播磨灘』『夏子の酒』『百八の恋』、どれもいい。が、『東周英雄伝』は破格である。 日本の劇画界よ震撼(しんかん)せよ!
 さあ、日本で鄭問(チェン・ウェン)を越える劇画家が登場するか?(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席91/01/27