小さい牛追い

マリー・ハムズン:作 石井桃子:訳
エルザ・ジェム:絵 岩波書店

           
         
         
         
         
         
         
    
    


 十歳の兄オーラと八歳の弟エイノーラは、夏の間、山の広い牧場で、両親があずかった村中の世話をする、小さい牛追いです。牛がけがをしたり、迷子にならないよう気を配るのは大変ですが、秋にもらえるお礼を楽しみに、二人は大張切り。牛がおとなしく草を食べている間は、自由ですしね。で、友達のヤコブと釣りをしていたエイノーラは、うっかり足をすべらして底なし沼へ落ちてしまいました。春には、雪解け水が逆まく川に落ちて、命からがらの目にあったばかりだというのに。心やさしいやんちゃ者、この子の毎日は波らんの連続です。
 一方、本が好きなしっかり者、夢見がちなオーラは、同じ牛追いの少女インゲルと出会います。孤児だというインゲルが語る未来の「あしたの家」は、オーラが考える「ぼくの家」とそっくりでした…。
 妹のインゲリドとマルタは、イノシシと名付けた子ブタを連れて、楽しいコケモモつみに。
 山と森と湖の国ノルウェーの豊かで厳しい自然、子どもたちの夢と冒険に満ちた活躍と、それをはらはらしながらも、温かく見守る大人たち。ユーモアたっぷりの語り口は、石井桃子氏ならではの名訳で素晴らしい。
 かつて、どこの国でも子どもが10歳近くになれば、小さい働き手として、いっぱしの責任を負っていたころの物語です。兄妹の秋から春までのお話を知りたい方は続編の「牛追いの冬」もどうぞ。
(和)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化中島千尋