タージ・マハールで数学しよう

仲田紀夫

黎明書房 1987


           
         
         
         
         
         
         
         
     
 今日は数学についての楽しい本が二冊。
 一冊目は『タージ・マハールで数学しよう』。これは、インドで発見され、現代科学の基礎となっている〇(ゼロ)を中心に数の概念を説明し、インド独特の文章題を紹介しているのだが、そのついでにインドの歴史を語り、さらに、インドの数学がアラビアを経由してヨーロッパに運ばれていく過程を要約し、そのあいまあいまに、楽しい問題を折りこむという、なんとも欲ばった本なのだ。だから、n進法の話のあとに七福神の話がでてきたり、インド数学をヨーロッパに紹介したイタリア商人といっしょに、そろばんを中国から輸入した毛利重能がでてきたり、とにかく種々雑多な知識が、数学の話のあちこちに要領よくさしはさまれていて、日本のアシモフここにありといった感じの本になっている。
 さて、こちらが数学の知識の本なら、サージ・ラングのさあ数学しよう!』(松坂和夫・大橋義房訳・岩波書店・一三〇〇円)は数学的な考え方の本だ。数学って、こんなにわかりやすく、こんなに美しく、こんなに健康にいいのだよ、というのがこの本の主張。ラング先生とハイスクールの生徒たちとのやりとりをまとめたもので、なんと球の体積を求める公式を、積分を使わず、簡単な数学的な知識だけできれいに証明していく過程なんかは、もう、ただただうっとり。手品でも見せられているような気分になってしまいます。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/07/19