どっこい巨人は生きていた

メアリー・ノートン 
猪熊葉子訳 岩波書店 1999

古城の幽霊ボガー卜

スーザン・クーパー
掛川恭子訳 岩波書店 1999

           
         
         
         
         
         
         
     
 『床下の小人たち』や『魔法のべッド』等の胸踊るファンタジーの作者メアリー・ノートンが、こんな楽しいパロディー作品を残してくれていたとはうれしい限りだ。『どっこい巨人は生きていた』が、それ。(しかし、このタイトル、何とかならなかったのかねえ)
 最近日本では、昔話は本当は残酷だったとかいうコンセプトの本が大流行のようだけど、何、ノートンのブラックユーモアの前にはみんなブットンでしまうこと請け合い。
 何せ、あの「シンデレラ」や「眠れる森の美女」や「美女と野獣」のお姫様たちが熟年婦人となって登場するのだ。挿絵がまた、妖精や怪獣を描かせたら天下一品のブライアン・フロウドだからすごい。とはいえフロウド描くところのリアリズムあふれる熟年のシンデレラたちの姿は夢を失いたくない人は見ない方がいいかも…。
 ともあれ、かつて、「めでたしめでたし」で終ったはずのおとぎ話の主人公たちが、ここでは、それぞれに悩みを抱えながら、その後の人生を生きている。例えば、巨人殺しのジャックと、豆の木のジャックは、殺したはずの巨人が実はまだ生きているという事実にうすうす感づきながら、それを認めたくはない。
 そんな奇妙な世界に迷い込むのがSF小説にしか興味がないという現代っ子の少年だから、ブラックユーモアがますます冴える。しかし、少年が次第にそちらの世界の出来事に巻き込まれていくあたりの巧みな筋運びは、やっぱりノートンならではのもの。
 願わくは、もっともっとこのシリーズを書いてほしかったが、残念ながらすでにノートン自身が、あっちの世界に旅だってしまった。
 方、『古城の幽霊ボガート』もこれ又、如何にもなタイトルで、内容も、スコットランドの古城に住み着いていた幽霊が、ある家族の荷物に紛れ込んだまま、カナダにやって来てしまうという、如何にもな筋立てなんだけど、うーむ、さすが、スーザン・クーパー。巧みなストーリーテリングと目に見えるような細部の描写とで、読ませる、読ませる。
 読み終わった時には、ボガートがあれほど望榔の念にかられたスコットランドへ行って、今も彼が住んでいるはずのその城をぜひ訪れたいという気になってしまった。
 このボガートは幽霊というよりも家つきの妖精みたいな存在で、日本で言えぱ座敷童子といったところだろうか。これには『ネス湖の怪獣とボガード』という続巻があって、ボガートは、かのネッシーとめでたくご対面を果たす。いずれにせよ、物語のもつ力の健在ぶりを示してくれた2冊に拍手。(末吉暁子)
MOE1999/08