象のダンス

魚住直子著
講談社 2000

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 ティーンズの抱える不満やいらだちや閉塞(へいそく)感が、内に向かうと自分を傷め、外に向かって発散されると、ほとんど犯罪と背中合わせの危うさをともなう。主人公は、十五歳の少女ミスミ。彼女も内面に不満を潜ませながら、不安定で危険な日常を揺らいでいる。
 大学時代の同級生同士の両親は、コンピューターソフト会社の経営者。母はすさまじいまでの仕事人間で、ミスミは幼いころから自立を強いられる。親の過干渉による大方の十代の不満とは違った、一種の空虚感が、彼女を大胆にも無謀にもしているようだ。

 デジカメで撮った写真をほめた、自称美大生の男の部屋に行き、たびたび彼と寝る。母と一緒にタイから父親を追ってきた少女と友だちになり、夫に逃げられた彼女の母親の入院費を出すために、両親を脅して百万円をくすねたり、売春しそうになったり。美大生の男には、級友の写真を女子中学生の生写真として売られて、ミスミは学校を退学する。

 既成のモラルを逆なでするような、暴走と逸脱をシンボリックに織り込みながら、言いようのない不安を抱えた少女たちの現在が鮮烈だ。

 ミスミは、両親に疎まれ、男にだまされ、タイの少女には裏切られる。多くの精神的な傷を負いながらも、危うい時間を象のダンスのように不器用で不安定に、しかし自力で考え判断し切り抜けていく少女の姿が、読み手の深い共感を呼ぶに違いない。(野上暁)

産經新聞2001.01.23