植物たちの富士登山

清水清・文・写真
あかね書房

           
         
         
         
         
         
         
    
    

海に山にでかける機会が多い夏、ぜひ、読んでほしい一冊です。大自然のなかの植物のみごとな営みが伝わってきます。
足のない植物たちが登山をする、それはどういうことなのだろうかと、たいへんおもしろいテーマです。全体に子ども向けの植物の本が少ない中で美しい写真と図解入りで、かなり生態系の専門的なことがらも、子どもにもわかりやすく説明されていてうれしくなります。
富士山の生い立ちから、植物の垂直分布、植物社会の移り変わり、自然のつりあいから自然保護の問題にまでおよんでいます。とくに分布状態のところでは三、七七六bの富士山を低山帯、亜高山帯、高山帯にその特徴や状態がくわしく書かれ興味深いです。
一方、五合目まで車で登れるようになり、手軽に富士登山ができるようになった半面、そのまわりの森林がどんどん枯れていくという自然破壊もおこってきました。「長い年月、自然界の生きものは、いつもつりあいをたもちながらいきている。だからたとえ破壊されても、お互いに働きあって、その傷をいやそうとする。自然がみずからの力で傷口をいやそうとしている姿を知ったいま、その力をさらに助けるように努力しなくてはならない」と著者はいいます。何十回となく富士山にのぼり、観察調査をつづけ、まとめられた本です。(天)
静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化杉本恵三子