潮風のおくりもの

パトリシア・マクラクラン 作
掛川 恭子 訳 偕成社
1995.7

           
         
         
         
         
         
         
     

 夏の間、避暑客でにぎわう島。その島で、パパ、ママ、バードおばあちゃんと4人で暮らすラーキン。生まれて間もない弟を亡くしたばかり──。一度も会わせてもらえなかった、名前もつけてもらえなかった弟のことで、両親にわだかまりをもっているが、その気持ちをうまく説明できないでいる。パパはタップダンスに、ママは絵に逃げ、バードおばあちゃんは全てを見守っている。
 そんなラーキン一家のもとに、避暑客が島を去った日、赤ん坊が残される。名前はソフィー。「しばらく預かってほしい……」という手紙が添えられて。
 ソフィーは亡くなった赤ん坊の代りではない、愛してはいけないと思いつつ、家族の誰もがソフィーを愛するようになり、彼女を失うことを恐れるようになる……。
 マクラクランのよく用いる独白の手法が、とても効果的に用いられた作品。赤ん坊のソフィーがどのように世界を受け入れていくかという認識の問題。また、ラーキンという少女の内面の成長がことばとどうかかわるかという問題を、多くの詩の引用や、他の登場人物の人生と重ね合わせて鮮やかに描きだした。家族の再生の物語を、極めて哲学的な問題を縦糸としながら、まるで映画を見るようなイメージ豊かな作品に織り上げた作者の力量に感服する。訳者の力も大きいだろう。
 十二、三才の少女の視点で描きながら、ある危うさをはらんだ家族のはりつめた緊張感まで感じさせる、マクラクランのうまさ。
 こんな作品を読むと、「児童文学っていいなあ」と満ち足りた気分につつまれる。映画化予定。あの独白の部分は、どう取り扱われるのだろう。楽しみである。(藤江 美幸
読書会てつぼう:発行 1996/09/19