戦争の記録

岩波書店 1987

           
         
         
         
         
         
         
     
 われわれは日々、さまざまな選択をし、それらの選択の総和がわれわれの未来を形作っていく。天皇や武士が政権を握っていた昔ならともかく、少なくとも、今日の日本においては、そういっていいと思う。そして、戦争を知ろうとしないというのもひとつの選択ならば、知ろうとすることも、またひとつの選択のはずだ。
 岩波書店から「戦争の記録」というシリーズで、五冊の写真集が出ている。どれも鮮烈だが、なかでも『戦争と日本人−あるカメラマンの記録』は忘れられない一冊だ。この写真集は、朝日新聞社の当直だったカメラマンの二・二六事件の現場の隠し撮りから始まり、結婚、佛印への従軍、敗戦、そして三男の死、と続いていく。一カメラマンがとらえた戦前、戦中、戦後の一家の記録の合間に、当時の事件や世相を示す写真をさしはさむという構成になっている。戦争のさなかにも一家の団欒があり、防空壕のなかにも子どもの笑顔があり、その壕の外には死体がころがっている。戦争とは、あくまでも、われわれの日常の選択の総和としての悲惨な日常なのだ。 いつでも大人が戦争をはじめ、若者が死ぬ。やがて大人になる今の若者は、未来の若者を殺してはならない。戦争を知るということは、自分たちが死なないためだけではなく、殺さないためでもあることを忘れてはならない。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/09/20