尖鋭現代詩選

アポロ詩書刊行会編 勁草書房



           
         
         
         
         
         
         
    
 「明けて 陶器のように凍みるわと/ひとりごとの かじかむ語尾をひっぱっても/北も西も 空とおなじ色だ/鳥の影一つ置かない風が唇を殺いで/歯のすきまを突いてきりりと鳴く」(「雪中返信」より・福原恒雄)
 書店でふと手に取ったこの詩集、読みながらつい手がふるえてきた。
「透明な糸でなにをつくった/蜘蛛/風に吹かれてどこまでもひろげた/巣/静かになにを待った/空中にゆれながら細やかな振動に集中し/空腹にたえて/空気をなめて/小さな誇りを張って/時節は 夏にあわせて/夕暮に八本の足でなにをあやつった/風をくばったのか/風をかりたてたのか/緑の繁みに/蜘蛛/今は蜘蛛の巣/青空に/ときはなたれて/秋風」(「秋風」・若林克典)
「蝶へと亡命したいんですね。詮索はしません。ただ紅梅白梅いまは盛りの魂の遠紅を、今宵狂気に追いやってしまうにはちょっと寂しい夕暮どきの鬼ごっこ。それは折紙に畳まれた淡い花野の吐気……」(「巴旦杏のある十二の風景」より・岡田茂)
「火のまわりが枯れているのは/わたしが人にもどったからです。/今夜の闇色はもとのわたしの影で/だから夢などこない/虫の霊だけがすがる/お墓のようになっています。」(「闇色に行き暮れて」より・坂口朝子)
 現代詩がつまらないなんて、いったいだれがいった? 
 正面きって言葉と切り結んだ軌跡がここにある。ただ耳をかたむければいい。(金原瑞人
朝日新聞 ヤングアダルト招待席901104