青春の一冊

文藝春秋社文庫

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 これは安岡章太郎、井上光晴、城山三郎、塩野七生、田辺聖子、佐野洋、赤川次郎、といった作家たち五八人がそれぞれの「青春の一冊」についての短いエッセイをまとめたものだ。
 あがっている本は、『こころ』『一握の砂』『戦争と平和』『コンティキ号漂流記』『赤い部屋の秘密』といった有名なものから、『小鳥の来る日』『仮装人物』といった今ではほとんど読まれなくなったものまで様々だが(列車の「時刻表」という変わった一冊もある)、それはさておき、どのエッセイもなかなか読みごたえがある。
 古山高麗雄がこんなことをいっている。「何々の一冊だとか、何々のベストスリ・だとか、雑誌や新聞がよくやるあの企画にのれない。一冊だとか、スリ・だとか、そんなふうに絞って何の意味があるんだ、と思う。しかし『青春の一冊』と言われて、即座に答えが出るそういう一冊もあるものだ。そしてそのことは、その一冊を語るより以上に、そのころの私を語るもののような感じである」 そう、この本の魅力は、本にたくしてそれぞれの青春が思い入れたっぷりに、そして鮮やかに語られていることなのだ。
 こんな本を読みながら、自分の青春の一冊や青春の一曲を考えてみるのも楽しいのではないだろうか。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席900304