さよならブラジル

ルイス・プンテル
小高利根子・訳 花伝社

           
         
         
         
         
         
         
     
 『さよならブラジル』は、七○年代、ブラジルの軍事政権下で、親が政治的亡命をしたために、一緒に亡命せざるをえなかった子どもたちの物語です。
 主人公のマルコーンは十歳の時にブラジルを離れ、ボリビアからチリへ、さらにパリへ。従って言葉もポルトガル語からスぺイン語、フランス語、と変わっていくの。
 脅迫電話や尾行でおどされ、銃弾の下をかいくぐって逃げてきた彼らは、悪夢や兵隊や警官をみるたびにとびあがるという「亡命者特有の神経の発作」にみまわれ、次には「ぼくはポルトガル語もフランス語もうまく話せないんだ」ということになるのよね。
 「よその国の英雄とか地理はよく知っているのに、ブラジルのことはろくに知らない」彼らは、望郷の念と、アイデンティティーの喪失で苦しむんだけど、これって彼らだけの問題じゃない。亡命じゃなくても同じような立場にいる人っていっぱいいるよね? それからまた、そういう人たちの苦しみをどう理解し、どうしたらいいのかわからないでいる人たちだっていっぱいいるはずよね? これ読んだからって即わかるというほどカンタンなことじゃないけど、少し、わかったような気がした。世界中の「国籍不明の子どもたち」
に捧げられています。(赤木かん子)
『赤木かん子のヤングアダルト・ブックガイド』(レターボックス社 1993/03/10)

朝日新聞 1989/09/17