さすらいエマノン

梶尾真治

徳間書店


           
         
         
         
         
         
         
     
 「何故、この世に、人間が生まれたのか。それがいいことなのか。悪いことなのか。」人類は、地球に、他の生き物たちに、そして人類自身に対して、誇れる行いをしてきたか? イエス、オア、ノー? 
 いまなりこんなふうに質問され、「ノー」と答えたら、全人類を裁く「終末装置」を手にするハメになってしまった。さあ、どうする?
 これは連作短編集『さすらいエマノン』(梶尾真治著、徳間書店・1400円)に出てくる場面のひとつ。 エマノンは、年齢も国籍もわからない不思議な少女、地球に生命が発生して以来の記憶を持つ。40億年の記憶のどこかから呼びかける声に導かれ、ナップザックひとつで旅を続ける。
 エマノンとともにわたしたちも、滅びようとする生き物たちが異変をおこす現場に行きあわせる。 ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤を強力にした科学兵器で、死の世界に変えられたままの土地。乱開発で再生不能の荒れ地が広がるアマゾン流域。
 エマノンは不思議な力を持っているけれど、生命を守るために戦うことはない。記憶の底から呼びかける声に、ただ静かに耳をかたむける。リリカルで、ちよっと切ないストーリーなのだ。
 最初の問いに「ドッカーン!」と答えた人も、読み終えると、ちよっぴり優しい気分になっているかも。 (芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席1992/02/09

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