サラダ記念日


俵万智

河出書房新社


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 俵万智が新人類だなんていうやつは信用しないほうがいい。
▽「おまえオレに言いたいことあるだろう」決めつけられてそんな気もする
 こんなふうに歌が作れるというのは、大発見だが、発見だけで魅力的な歌はできない。この人の特徴は、普通の人がどうしてもうまくいえない(でもどうしてもいってみたい)気持ちをズバリ三十一文字にまとめあげるうまさにある。うん、この気持ちわかる!、というやつだ。
▽また電話しろよと言って受話器置く君に今すぐ電話したい
 それから、アッと、思わず声がもれてしまうほど意表をついた言葉使いの妙。
▽誰を待つ何を吾は待つ〈待つ〉という言葉すっくと自動詞になる
 擬音のおもしろさ、巧みさ。
▽自転車のカゴからわんとはみ出してなにか嬉しいセロリの葉っぱ
 それに、少女マンガのノリとセンスのよさ。
▽万智ちゃんがほしいと言われて心だけついていきたい花いちもんめ
▽君といてプラスマイナスカラコロとうがいの声も女なりけり
 そして、センチメンタルでクラシックな響きもすてきだ。
▽過ぎ去ってゆく者として抱かれおり弥生三月さよならの月
▽愛された記憶はどこか透明でいつでも一人いつだって一人
 こんな本が出たことを、わいわい騒がず、ひとり静かに喜んでいたい。(金原瑞人
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/06/28