巨人のはなし

マルヤ・ハルコネン再話
ペッカ・ヴオリ絵 坂井玲子訳 ベネッセ刊

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 世界中の民話や伝説を読んでいると、似たような話に出会うことがあります。遠い昔から口伝えによって残ってきた物語には、不必要な要素はそぎ落とされ何世代もの智恵や世界観が蓄積されています。今は遠く離れ全く違う言語を話す二つの国に、同じような物語が伝わっているということは、その物語が偶然、同時発生的に異なる所に生まれたか、もしくは元々同じ地域に住んでいた両民族が長い時をかけて移動し、全く別の場所に住みついた、という可能性を考えさせてくれます。
 『巨人のはなし』はフィンランド文学協会の資料保管所に集められたお話の中から昔話の研究家マルヤ・ハルコネンさんが巨人にまつわる話だけを拾って一冊の絵本にしたものですが、第一話目の「巨人とライシオの村」というお話は、日本の「大工と鬼六」に筋がそっくりです。激流に橋をかけあぐねている大工に鬼六が、大工の目玉とひきかえに橋をかける約束をする……でも大工が鬼六の名前を見事あてれば大工は救われ、橋をタダでかけてもらえるという話は、巨人版では、二人の巨人が坊さんのために石積みの教会を立てるという筋になっています。名前あての部分は同じです。フィンランド文学協会の方に、「フィンランドと日本は遠く離れているのに、似たような話が残っているのはおもしろいですね」とお話ししたところ、「フィンランド人も一部の日本人も元々シベリアに住んでいたのでしょう。それが西方向と東方向に移動していき、分かれた。でもお話の骨格だけは残ったのでしょうね」と教えてくださいました。
 他に、人間を「変な格好をした虫」と勘違いした巨人の女の子に「これは虫じゃないんだ。わしら巨人が、この世界からいなくなった後でも、ずっと生きていく生き物だよ。ひろった所に返しておやり」と諭す父巨人の話、智恵を使って巨人を倒す人間の話、靴をぬう時に人間を一緒にぬいこんでしまいながら、ちっとも気にしない巨人の話など、興味深いお話が十二話収められています。絵は、白黒のシンプルかつ大胆な構図で巨人の大きさ迫力を余す所なく伝えており、この本の魅力をさらに大きなものにしています。画家のペッカ・ヴオリ氏はこの作品で、優れたさし絵に与えられる「ルドルフ・コイヴ賞」(トーベ・ヤンソンやクリスティーナ・ロウヒも受賞している栄誉ある賞です)を受賞しました。
 白黒の絵なので一見地味な絵本ですが、そこに収められたお話と絵は、読む人に、大きく豊かな世界を見せてくれます。(米田佳代子

徳間書店「子どもの本だより」1998年3月/4月号
絵本ってオモシロイ「昔話のふしぎ」
テキストファイル化富田真珠子