クラバート

オトフリート=プロイスラー作
中村浩三訳 偕成社

           
         
         
         
         
         
         
    


 新しい世紀に向かって、私たちが自然環境や文化遺産とともに守っていかねばならないのは、いつまでも若い人びとに読み継がれていってほしい、文学のマスターピース(傑作)でしょう。
ご紹介する『クラバート』も、まぎれもなくその一つです。ドイツとポーランドにまたがるラウジッツ地方に伝わる伝説を素材にしたこの作品を、作者プロイスラーは十一年かかって書き上げました。
 孤児で十四歳の少年クラバートは、沼のほとりの荒地にある水車場に迷いこみ、そこの職人見習いとなります。この水車場は、黒魔術のような魔法を使う一人の親方に支配されていて、クラバートは十二人の先輩職人たちとともに、苛酷な粉ひきの労働に従事しながら、週に一度カラスに変身し、親方に魔法のレッスンを受ける日々を送ります。
この水車場には、闇のような恐ろしい部分があります。大晦日に<大親分>が馬車でやってくる時、徒弟たちの誰かが殺されます。外の村の少女の一人を愛したものはすべてその運命にあうのでした。
 ここで三年を過ごしたクラバートは、真の自由と、一人の少女への愛を貫くために、親方のマインド・コントロールに対決できる意志の力を身につけます。それには親友のユーローも大きな助けとなってくれました。
親方から学んだ<魔法>によって親方と対決せねばならないクラバートですが、少女は心の底から湧き出る魔法である<愛>によって、最後の試練をくぐり抜けます。
 その物語としての面白さ。遍歴するイエスを思わせる「デカ帽伝説」などさまざまなエピソード。そして成長期にある若者が直面する体験の重さに加えて、水車場と<国家>とのアナロジーまでも感じられます。作者は執筆のかたわら、楽しい「大どろぼうホッツェンプロッツ」も生みだしました。(きどのりこ
『こころの友』1999.01