ことしの秋

伊沢由美子・作
講談社 1997.9

           
         
         
         
         
         
         
     
 今時の女の子の不良っぽい男言葉で主人公ヒロが描いてみせる離婚後の両親、その生活。母親が新しい家族に自分を迎えようとしてもスルリとかわすヒロ。「新しい父親に食べさせてもらういわれはない」から。見捨てられた夫そのままに見える父親を「しょうがねえなあ」と支えながら甘やかさない冷静さ。学校のクラブで先輩のイジメをやり返し、先妻の娘の拒食症に悩む母親に頼られる強さ。
 親の身勝手に翻弄され、苦しんだ後、ヒロが選んだのは自分の考え、スタイルでクールに生きること。「十四才に都合よくできているものなんてこの世にはほとんどない」のだ。
 脱色した髪とピアスできめ、学校も休みがちの中二の自分を、しかしヒロは決して見失わない。マンションの前を毎日ジョギングする青年を見続けるのは「退屈以外に毎日同じことをくり返す意味があるのか知りたい」から。日常に耐えることにヒロは憧れている。
 ヒロの行動は言葉のきつさをいつも裏切っている。拒食症のユキのめんどうをみる羽目になるし、リサイクルのサークル仲間の田中さんの妊娠中絶費用を相手の男から恐喝まがいに奪う手助けまでやってしまう。言葉と言葉のすき間から現実に歯をくいしばって耐える女の子が見える。そして傷ついたものどうしの手さぐりの交流が生まれてくるのも。
 親の恋愛沙汰から離婚という状況の中でこんな風に生きるヒロはかっこ良すぎるかも知れない。しかし、どうしようもなく弱さを露呈する大人たちに頼らず、自分の生きる力を見出そうとする子ども像は魅力的だ。作者はこれまでの作品にも背景の社会の変化、大人たちの姿をくっきりと描いてきた。この作品ではグラビアのようなインテリア、ブランドのファッション、コンビニなど現代の風俗を背景に断ち切られた人間関係の中で生きる子どもたちが浮かび上がった。語り口の鮮やかさとともに現代という時代を見事に切りとった作品となっている。(高田功子
読書会てつぼう:発行 1999/01/28