こんとあき


林明子

福音館書店 1989

           
         
         
         
         
         
         
    
 こどもの頃って思い出してみると日々「不安」との戦いだったような気がします。夜そっとお母さんが外へ出ていく音を聞いて「もう帰ってこないんじゃないか」なんて考えてドキドキしたり、公園でひざをすりむけば、前の日にTVドラマで観た「破傷風」にかかってけいれんしながら死んじやうんじゃないかってドキドキしたり……。そして大抵は(っていうか間違いなく)お母さんはすぐに帰ってきて(実は洗濯物をとりこんでただけだったりとか)ホッとして、膝から血を出して泣きながら帰ると、お母さんが赤チン(ありましたねえ)を塗りなから「これでもう大支夫」って言ってくれてホッとする。この「ドキドキ」から「ホッ」へ至った時の快感こそがこどもの頃のすべてだったと言い切ってしまうのは少し乱暴かもしれませんが、例えば自分のこどもなんかを観察していると、しみじみとそんな気がします。
 で「こんとあき」ですが、この絵本は大人である私たちにそういう「ドキドキ」と「ホッ」という体験を鮮やかに甦らせてくれます。「こん」が度々口にする「だいじょうぶ、だいじょうぶ」ということば。「よかった!」という最後の頁の最後のことば。この二つのことばがとても象徴的で、読んでいる私たちをも救済してくれます。この本は結局こどもが読む分には心の動きを追った林明子のいつもの絵本なのですが、大人が読んでも心地良いのは、大人になりきれない大人である私たちが、他者からの救済を心のどこかで待ち望んでいるからかもしれません。読み終わって、ちゃんとした大人になろうって、思わず私は心に誓ってしまいました。(しんやひろゆき)   
 
1989.12