カテリーナのふしぎなお話

モランテ作/岩波書店刊

           
         
         
         
         
         
         
    
 七、八歳の頃に読んで、筋はすっかり忘れたのに不思議な強い印象だけが残っていた本が、先頃復刊されたので、読み直してみました。『カテリーナのふしぎなお話』(モランテ作・岩波書店刊)は、姉とぼろきれのお人形と、三人きりで貧しい暮らしをしている小さな女の子カテリーナのお話。
ある日姉のロゼッタは、おなかを空かせた妹のために仕事を探しに出かけ、夜になっても帰ってきませんでした。心細くなったカテリーナはお人形にやつあたりして、捨ててしまいます。そこへくず集めの老人がやってきて、お人形を連れていってしまいました!
気がついた時には手遅れ。カテリーナが後悔して泣いて、泣いていると…ぼろは着ているものの、金の髪をして銀のトランペットを持った「王様のような」少年、ティトがやって来ました。二人はお人形を捜して、夢の国を旅することになります…。
この本のことを思い出すとき、まず浮かんだのは、著者自身による挿絵でした。二人を泊めてくれる「偉大な森番」の夫人と子どもがいきなりシジュウカラだったり(右)、「飛行機に逃げられて」迷子になる王女様がいたり(下)。こんなのんびりした絵とは裏腹に、お話には半分怖く、半分わくわくするような緊張感が感じられました。
今回読み直してみて、それはまずティトがヒーローらしくないからなのだ、と思いました。一見カテリーナを救いに来た騎士に思えるティトですが、実は昔出会った「樫の木の王女」のことで頭がいっぱい。「このトランペットが鳴らないのは、王女がぼくを忘れてしまったから…」とため息をついています。(王女がトラにさらわれたとき、婚約者の王子は「トラと戦っても勝ち目はない」から助けに行かなかった(!)けれど、王女は、救ってくれたティトにはトランペットをあげただけで、やっぱり王子と結婚してしまったのです。)
それに強いはずの彼は、不良の子どもに石をぶつけられただけで昏睡してしまい、カテリーナはますます、心細くなります。おまけに「ティトの看病はあたくしが」と、貴婦人に意地悪をされ…?
自分のせいで大事な友だちを失ってしまったという後悔や、思いを寄せても同じだけは思ってもらえない悲しさ、やきもちや「恋のさやあて」を思わせる意地悪、おまけにヒーローがあてにならない心細さ…可愛い夢物語に見える中に、様々な大人っぽい感情が詰まっていました。私が昔感じた「緊張感」は、こうした馴染みのない感情のせいだったのでしょう。また、今回読んでみてはっとしたのは、「あらゆる子どもの夢がかなう城」で、ロゼッタの部屋に「かご一杯の繕い物の靴下」があったことでした。仕事さえあれば妹に何か食べさせられる、というのが、ロゼッタの夢だったのです。
でも、今、目の前にティトのような「ヒーロー」が現れたら、「ちょっとぉ、いい加減にしてよね」と言ってしまうような気がしますが…。(上村令)

芝大門発読書案内「緊張感の正体」
徳間書店「子どもの本だより」2003年1-2月号 より
テキストファイル化富田真珠子(モランテ作/岩波書店刊)



七、八歳の頃に読んで、筋はすっかり忘れたのに不思議な強い印象だけが残っていた本が、先頃復刊されたので、読み直してみました。『カテリーナのふしぎなお話』(モランテ作・岩波書店刊)は、姉とぼろきれのお人形と、三人きりで貧しい暮らしをしている小さな女の子カテリーナのお話。
ある日姉のロゼッタは、おなかを空かせた妹のために仕事を探しに出かけ、夜になっても帰ってきませんでした。心細くなったカテリーナはお人形にやつあたりして、捨ててしまいます。そこへくず集めの老人がやってきて、お人形を連れていってしまいました!
気がついた時には手遅れ。カテリーナが後悔して泣いて、泣いていると…ぼろは着ているものの、金の髪をして銀のトランペットを持った「王様のような」少年、ティトがやって来ました。二人はお人形を捜して、夢の国を旅することになります…。
この本のことを思い出すとき、まず浮かんだのは、著者自身による挿絵でした。二人を泊めてくれる「偉大な森番」の夫人と子どもがいきなりシジュウカラだったり(右)、「飛行機に逃げられて」迷子になる王女様がいたり(下)。こんなのんびりした絵とは裏腹に、お話には半分怖く、半分わくわくするような緊張感が感じられました。
今回読み直してみて、それはまずティトがヒーローらしくないからなのだ、と思いました。一見カテリーナを救いに来た騎士に思えるティトですが、実は昔出会った「樫の木の王女」のことで頭がいっぱい。「このトランペットが鳴らないのは、王女がぼくを忘れてしまったから…」とため息をついています。(王女がトラにさらわれたとき、婚約者の王子は「トラと戦っても勝ち目はない」から助けに行かなかった(!)けれど、王女は、救ってくれたティトにはトランペットをあげただけで、やっぱり王子と結婚してしまったのです。)
それに強いはずの彼は、不良の子どもに石をぶつけられただけで昏睡してしまい、カテリーナはますます、心細くなります。おまけに「ティトの看病はあたくしが」と、貴婦人に意地悪をされ…?
自分のせいで大事な友だちを失ってしまったという後悔や、思いを寄せても同じだけは思ってもらえない悲しさ、やきもちや「恋のさやあて」を思わせる意地悪、おまけにヒーローがあてにならない心細さ…可愛い夢物語に見える中に、様々な大人っぽい感情が詰まっていました。私が昔感じた「緊張感」は、こうした馴染みのない感情のせいだったのでしょう。また、今回読んでみてはっとしたのは、「あらゆる子どもの夢がかなう城」で、ロゼッタの部屋に「かご一杯の繕い物の靴下」があったことでした。仕事さえあれば妹に何か食べさせられる、というのが、ロゼッタの夢だったのです。
でも、今、目の前にティトのような「ヒーロー」が現れたら、「ちょっとぉ、いい加減にしてよね」と言ってしまうような気がしますが…。(上村令)

芝大門発読書案内「緊張感の正体」
徳間書店「子どもの本だより」2003年1-2月号 より
テキストファイル化富田真珠子