彼女の想いで……

大友克洋

講談社 1990

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 『アキラ』が近く完結するというわけでもないんだけど、今回は大友克洋の初期短編マンガ集『彼女の想いで……』といきたい(それにしても『アキラ』、ほんとうに完結するんだろうな。二、三年前にも「今秋完結!」と大々的に宣伝したことがあったし)
 それでまあ、たしかに『アキラ』もいいんだけど、昔からの大友ファンとしては、やはり初期の短編ってのは忘れられない味があるってことを、今日はいいたいわけ。『ショート・ピース』や『ハイウェイスター』といった短編集にのっている作品の衝撃といったらなかった。とにかく一作ごとに新しい趣向ときつい毒が盛られていて、いったい次はどんなものが顔をだすのか、ぞくぞくしながらページをめくってましたよ、ほんとうに。
 それでこの短編集なんだけど、まず「Fire Ball」がのってるのがうれしい。これは知る人ぞ知る幻の傑作で、初期の短編から『童夢』『アキラ』への方向転換を象徴する過渡期的な作品。
 しかし、それ以外の作品もバラエティーに富んでいて魅力的だ。未来を皮肉たっぷりに描いたSFもの、グロテスクなナンセンスもの、古典のパロディー、といった調子。表題作の「彼女の想いで……」なんて、フォークナーの「エミリーへの薔薇」くらいいい出来だ。作者もあとがきで「この頃は、一作一作で変な事しようって気はありましたね」と語っている。 そう、『アキラ』だけが大友克洋ではないのだ!(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席90/06/10