絵画の見方

スーザン・ウッドフォード

高橋裕子訳・岩波書店


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 格好の美術入門書を紹介したい。これは「歴史画と神話画」「空間表現の問題」といった章題をみてわかるように、絵画をその主題や「一目見ただけでは味わうのが難しい形態や構図などの問題」にそって解説した本で、たとえば「風景画と海景画」の章の最初の見開きのページにはモネの「印象・日の出」とターナーの「吹雪の中の蒸気船」と北斎の「神奈川沖浪裏」が並び、これら三つの作品の比較がなされるといった調子だ。
 この本の発想や構成もなかなかいいのだが、なににもましてすばらしいのは、絵画を語ることを教えてくれていることだ。「すごい」「美しい」といった言葉でしか絵画を語ることのできないということは、ただそういうふうにしか絵画をみていないということで、そういうわれわれに、この本は語るべき言葉を教えてくれる。「絵画の見方は一つではない」という章から引用してみよう。「絵を描写したり分析したりするのに適切な言葉を見つけ出すことは、しばしば、受動的な見方から能動的な鋭い見方への進歩を助ける唯一の手段となるのである」
 また、語るべき言葉に興味のある方にはぜひ、新潮選書からでている宗左近の『私の西洋美術ガイド』と粟津則雄の『日本洋画二二人の闘い』の二冊を勧めたい。これほど磨き抜かれた言葉で美術を、いや美を語った本にはなかなかお目にかかれるものではない。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1989/03/26