ゲキトツ!

川島誠・作 長新太・絵 BL出版 03・1

           
         
         
         
         
         
         
    
 小学四年生のとき、急に学校に行けなくなった"ぼく"。かわりに通うことになったフリースクールで、相談員の白衣の大男に、治療と称してサッカーボールを蹴る練習をさせられる。ところが、大男が夜逃げしてフリースクールは閉鎖され、"ぼく"あてにサインされたサッカーボールが残される。そんなことがきっかけになって、"ぼく"は学校にもどり、地域のサッカーチームに入れてもらう。しかし、走るのが速いだけの、気の弱いサッカー選手。妹にまで「みっともないからやめたら」といわれるが、監督は、なぜか"ぼく"のことを秘密兵器だという。
 "ぼく"が秘密兵器ぶりを見せて大活躍したのは、試合中にゴールポストに激突して気を失ってから。意識が戻ると、監督はじめ相手チームのメンバーが心に思うことも、はっきりと言葉になって聞こえてくるのだ。そこで相手の作戦の裏をかいて、見事なプレイをしてチームは圧勝する。そればかりか、不思議な耳のおかげで、父親が株で大もうけしたり競馬で万馬券を当てたり。母親の父親殺害計画まで聞こえてしまうのだから、穏やかではない。他人の心の声が聞こえるという、超能力を手に入れてしまったサッカー少年。羨ましいような鬱陶しいような、そんな少年の戸惑いが、多分に戯画化された大人たちとのあいだに、絶妙なコントラストを浮上させて心憎い。超能力を喪失した後の切り返しも、なかなか見事である。(小学中級から)野上暁 産経新聞