歌う石

O.R.メリング

井辻朱美訳 講談社 1995

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 アイルランドの女流作家メリングの『妖精王の月』に続く、本格的ファンタジー。アメリカに住むケイは、「歌う石」を手掛かりに自分のルーツを探してアイルランドに旅立つ。ケイはみなしごで、奇妙な夢や幻視をよく見る変わった少女だ。山の中でみつけた巨石のアーチをくぐったとたん、ケイはケルトのトゥアハ・デ・ダナーン族の支配していた紀元前の世界へ迷いこむ。そこで記憶をなくした少女アエーンと出会い、助けを求めて仙境の賢者フィンタン・トゥアンを訪ねる。トゥアンは二人に、終焉の迫っているダナーン族を救うために種族の古代の四つの宝を探せと言う。
 ここから、物語は女魔術師となったケイのアエーンを連れての宝探しの旅となるわけだが、二人の旅には、ドルイドたちの夢見の技によって裏切り者ときめつけられたダナーン族の次代の女王エリウや、エリウ暗殺の使命をおびた枝角をもつ巨人、海から侵略を企てるゲーディル族とフィルボルク族、ケイやアエーンの恋、加えてアエーンの正体の謎など、様々な事件や神話の登場人物に彩られ、トゥアンの織る「タペストリー」はさながら極彩色のようである。
 物語の見所は、滅亡の定めにあるダナーン族の運命と、それをどうやって四つの宝が救うのかである。旅の途中でケイは何度も、宝を探しても無駄ではないかと考える。しかし、ついに宝が四つともみつかり、問題のエリウが女王の座につき、ゲーディル族の侵略に対し平和的に降伏を選んだとき、「石」が歌いダナーン族は再び神々として認められるのである。敗北が勝利へ変わるのだ。ここで神話の世界が一気に広がりを見せる。最後に明かされる、エリウの娘であったというケイのルーツも、意外だが納得いくものである。(森恵子)
図書新聞 1996年2月24日