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井戸田修/作
評論社 1990

           
         
         
         
         
         
         
     
 この絵本は、第十二回「日本の絵本賞」手づくりコンテスト・幼児・児童の部においてですね、〃内閣総理大臣賞〃を受賞した作品です。
 というと、課題図書などと同じで、逆に、な〜んだ、たいしたことないだろう〜と敬遠するかたもいらっしゃるかもしれませんが、これがまたどうしてどうして-。
 たいしたことあるんです、いや、凄い、凄すぎる絵本なんです、これが! 
 正直いって、私もいままでこういう賞の審査員のかたがたに、全幅の信頼をおいていたわけではありませんが、これからは心を入れ替えます。
 いや、よくぞこの絵本に賞をあげてくださった……!
 だって、小学校三年生の描いた絵なんだよ。その小学校の関係者でもない限り、この絵に遭遇できるチャンスなんて、普通はないもの。こうして賞をとって絵本にでもならない限りさ。中味はタイトル通り〃うし〃です。全編〃うし〃です。それもひとめ見てド肝をぬかれたほど〃迫力〃に満ちた〃うし〃なんです。
 こんな絵を描かれたら、プロだって泣いちゃうよね〜、とうてい勝てません。
 絵描きだけじゃなくてさ、文章書きも泣いちゃうな。うしろについてる彼の〃作者のことば〃ってのが、これまたとうていかないません……というくらい、うまいんだもの。私、読んでて思わず吹き出しちゃったよ。
 彼と彼の親御さんと、彼の学校の先生がたに、脱帽-。
 子どもの才能をつぶすのはカンタンだけど、伸びるのをジャマしないでいるのには、ましてや支えるには、洞察力やら判断力、才能や愛情がいるもの。
 だってさ、これ一目みて、凄い、凄い、これ、なんだ!? って思うょうじゃなきゃ、プロじゃないと思うんだけど、(図書館員、教師、及びよい絵本を子どもに薦めたい人たちね)これ、絶賛されて必ず推薦図書に入る、なんて話、きかないもの。
 確かにこの牛、はいわゆる牛のカタチ、はしていないけどさ、描くっていうのは本質を描くことで、外側を描くことじゃないでしょ?
 ひどい例だと、雲を描くのに黒いわくで雲の形を描いてから色をぬりなさいっていう〃指導〃を先生にされたっていうひともいるからね。
 作者のことばに書いてあるように、それは彼のお父さんだって友だちだって、とても素直に〃うまくないね〃って感想を述べたかもしれません。でも彼の絵がうまかろうとそうでなかろうと、お父さんや友だちの、彼に対する愛情は変わらないし、だからって描くな、なんていわないのよ。だってそんなの余計なお世話でしょう? でもって、本人は自分がどういうものを描いてるかはわかってたと思うので、多分そういわれても、傷ついたりはしなかったでしょう。
はげましてくれる人が一人もいなかったら、彼だってゆらぐかもしれないけど、好きに描きなっていってくれる人がちゃーんといるんだしね。それだけのゅとりとユーモアを感じるのよ、彼の絵からは-。
 どのぺージを見ても、ああ、こいつ、描いてるあいだじゅう幸福だったろうな、と思えて、おもわずこっちも笑ってしまいます。
 いやあ、うらやましい!(赤木かん子)
『絵本・子どもの本 総解説』(第二版 自由国民社 1997/01/20)