海の向こうから

レイモンド・カーヴァー

黒田絵美子訳・論創社 1990


           
         
         
         
         
         
         
     
 今回は、村上春樹の翻訳・紹介によって、日本でも一躍有名になったアメリカの作家レイモンド・カーヴァーの詩集『海の向こうから』を紹介してみたい。 とりあえずはそのなかから「クモの巣」というタイトルの詩をひとつ。
「ちょっと前、わたしは家のひさしに登った。/そこから海が見え、波の音が聞こえた。/そして、この何年かに起こったいろいろなことすべてが、/そこから見えた。/暑く、静かだった。ひき潮だった。/鳥の声もなく。/手すりに寄りかかった時、/クモの巣が額にふれた。/髪の毛にひっかかった。/しょうがない、そのまま家の中へ入った。/風もない。/海はものすごく静かだ。/わたしはクモの巣をスタンドのかさにぶら下げた。/わたしの息がかかると、震える。/その様子を見ていた。/きれいな糸だ。複雑だ。/もうすぐ、誰にも気づかれずに、/わたしはここからいなくなっている。」
 かなり長い引用になってしまったが、これは紹介の文章をできるだけ少なくしようという配慮からで、そもそも詩に解説なんていらないし、解説してもらってはじめてわかるような詩なんてつまらないにきまっている。読んで、「いいな」と思うかどうか、ただそれだけだ。
 で。いかがだったでしょうか。ぼくは大好きです。おそらくカーヴァは小説よりも詩のほうがいい。 カーヴァーの詩集はもう一冊、『水の出会うところ』が、同じ訳者で、同じ出版社からでている。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 90/09/23