黄金の羅針盤

フィリップ・プルマン著
大久保寛訳/新潮社 1995/1999

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 十七世紀のプラハで、ある学者が占星術のための器械を作るつもりで、偶然に「真理計」を発明した。二世紀ほどの時が流れ、この世界とパラレルに存在する別世界の一つからオーロラを通してやってくる粒子が「真理計」の語ることを正しく読み取ることがわかってきた。だが、権力はその読みを聖書の神学体系に反する異端とした。当然、ダスト(ちり)と呼ばれるこの粒子を送りこんでくる別世界への橋をかけようとする人びとと、それを阻止しようとする体制側との戦いが起こった。これは、その激しい戦いを筋とした物語である。
 骨子の説明だけでも、この作品が「ナルニア国」的善悪二元論に立つファンタジーとは別種な世界観・人間観に基づくものであるとわかる。そして、二つの勢力の争いは、タタールがカムチャツカを攻めるかどうかといった政治情勢にあり、人間一人ひとりには絶えず姿を変えられる守護精霊ダイモンがついている、そして魔女や鎧を着た熊族がいる世界である。

 こういう珍しいキャラクターたちが、ヒロインであるライラの、さらわれた子どもたち探索の危険な旅の展開とともに次々登場し、ときに壮大で神秘的な、ときに恐怖と不安に満ちた場面をくりひろげて、読者を飽きさせない。

 牢固たる物語世界を実感させる緻密な構成力と、そっけないほどに記録風な文体が、独創性をさらに高めている。(神宮輝夫
産経新聞1999/12/07