おもしろ読書館

北海道新聞1999/07/10
赤木かん子

           
         
         
         
         
         
         
     
 さて、今回の〃ウーマン〃、まずは中島らものエッセーからぎろちん」(双葉文庫 1999)から。
 これは久しぶりに読みごたえのあるエッセーだったのでゼンブ読んだらもちろんお得ですが、時間のないむきはそのなかの〃いまどきの校則〃というとこだけでもお読みください。
 つまりいまどきの校則というのは子どもたちを育てるためにではなく、どんなくだらないことでも守る〃フツーの子〃とそれに背く〃フツーでない子〃を選別するためにあるのだ、という、目からウロコの話なのです。自分でなんかへンだと思ってもうまく人に説明できない時は、こういうプロの書いたコトバを知っていると楽になるし、強くなれます。コ卜バは武器だ。
 それと同じように、もうほとんど大人用といってもいい絵本なたがもし奴隷だったら…」(ジュリアス・レスター/ロッド・ブラウン絵/片岡しのぶ訳/あすなろ書房/1999)も-。
 この本のテーマはアメリカの黒人差別。ビジュアルの強み-一瞬で理解させ、ショックを与える-も効果的に使ってあるし(ホント、彼らがアメリカへ連れて来られた時の船底の絵ってショックですよ)、迫力のある一冊です。「もしあなたや家族がここにいたら」と読者に問いかけるこの手法は、黒人差別だけでなく、この地球上のありとあらゆる状況に応用できるものでしょう。爆撃の下にいるのが自分の夫や息子だったら? と思ったらね。
 えない道のむこうへ」(クヴェント・ブーフホルツ/平野卿子訳/講談社/1999)はヤングアダルト・タイプの一冊。太めで時代おくれの黒ブチメガネをかけてちょっといじめられっ子の主人公と絵かきの大人との交流を描いています。
 その人だけが少年の才能を認め、僕の描く絵にはいつも君の音楽が流れているんだ、といってくれ、少年が育つことができるように守ってくれたのです。
 子どもは〃居場所〃-自分が存在していてもいい空間、空気-にひどく敏感な生き物です。大人が、あそこはあいてると思ったり、実際にスキマがあるということと、居場所があるということとは、まったく別のことです。居場所のない所には〃いたたまれない〃のです。少年が成長できる居場所をこの絵かきがどうやってつくってやったかは、参考になるでしょう。
 「週末に会いましょう」(篠原鳥童/朝日ソノラマ/1999)は香港が舞台。中国風味のロマンチック・オカルトファンタジーコミックです。瑞獣麒麟(ずいじゅうケイロン)を従え、人の陰の気、つまり邪悪さを喰(く)うヒーローのしていることは、結局のところ陰陽のバランスをとり、人の魂をどう救うか、なので、今を描くのにむいています。
 「飛行機の歴史」(山本忠敬/福音館/1999)はプレゼン卜用、手抜きのない良い仕事なので、お子さんが好きだったら、ぜひ。(赤木かん子)
北海道新聞1999/07/10