おまえにパロルが救えるのかい?

天沼春樹

ぱろる8号 1997/12/25


           
         
         
         
         
         
         
     
 季刊「ぱろる」が休刊するということで、とるものもとりあえず、当書評欄の登場キャラが集まってきて、なにやら座談会をはじめたもよう。
 編集部の隅っこに、副編の中西氏が大きなからだをちぢこめて控えている。座談会に加わりたいのではなく、原稿待ちの模様。因みにAは天沼春樹先生。Nは、うさぎのニッキー、Mはカメのミレニアム・ジュニア、Dはディカプリオ、Bはブラッド・ピット、Jはユアン・マクレガー。

N.な、なんだい、もうこの雑誌休刊になっちゃうの。
A.そうなんだ。せっかく現代ドイツ・ヤングアダルト情報を続けて書
こうとしてたのに。
M.やりたいことは最初のほうでやらないからいけないのさ。人生なん
てこんなものさ。
N.醒めたこというなよ、カメのくせして。
D.(わりこむ)わたしの新作が日本で封切られて嬉しいです。
N.なんだい、あの外人?
M.どこかの記者会見会場からまちがえて来ちゃったのとちがう?
D.これは、大惨事のなかに咲いたロマンスともいうべき作品です。(映画『タイタニック』参照)
N.大惨事? なるほどパロル舎と愛読者にとってはまさにそうだね。これまで、苦労に苦労を重ねてきた副編の中西さんがあまりにも可哀相じゃない。(中西某、温かい言葉にむせび泣いている)あれ、どしたの?
A.ぼくがあげたあんパンが喉につかえたらしいよ。それだけだ。
M.いつものオチャラケはそれくらいにしたら。
N.やい、カメー!だれにむかってものをいってるんだい。今日は先生とニッキー様がふたりとも来てるんだぞ。
A.ニッキー、あまりとばすなよ、君の活躍の場は、ほかにちゃんと考えているから。それより、最後の書評をしょうじゃないか。(温厚に)
N.最後の晩餐と、最後のおばさんのちがいについてかい?
A.(いきなりテーブルをひっくりかえす)だまれってのがわかんねえーのか!
M.あれ、安岡力也も呼んでたっけ?A.それで、ひとつ報告があるんだが、以前、この欄でとりあげた戸田和代さんの『キツネの電話ボックス』(金の星社)が、浜田広介賞を受賞したんだ。
B.ヒロスケ・ハマダ? Who?
A.ドゥ・ユウ・ノー、「泣いた赤鬼」?
N.ひでえ英語。
A.幼年童話のなかで、生と死をあつかうってむずかしいんだけれど、ほんとにハートフルでいい作品だと思ってたんだよ。
M.見る目があったって自慢したいのとちがう?
A.おい、誰かショットガンもってこい!えっ、百円ライターしかないって? それじゃあ、そいつの甲羅の下のほうから焙ってやれ。
M.やめて!
A.それでね、今年九月に翻訳出版されたウルフ・スタルク作、アンナ・ヘルグンド絵、菱木晃子訳の『おねえちゃんは天使』(ほるぷ出版)の話をしたいんだ。
N.スウェーデンの絵本だよね。
A.そう、絵もストーリーもナイスですね。
M.それ、だれかのマネ?
A.誰か火炎放射器もってない?中西 うちの予算じゃむりなんですけど。すいません。
A.なに予算がなくて、買えん放射器。
M.和田勉も来てるの?
A.それでね、自分が生まれる三年まえに死んだ天使になったおねえちゃんと、少年が交流する話なんだ。J.オー、ソレ、ファンタジー、デスカ?
N.関係ないのに口はさむんじゃねえよ!それに、なんでもかんでも、ファンタジーにいれるんじゃない。アホか?
J.ユアン・マクレガーデスケド、ワタシ。
A.おい、誰か『もののけ姫』のモロを呼んで、こいつの喉を食いちぎらせろ!
N.あの白い山犬迫力あったよね。美輪さん最高!森繁さんなにいってたかわかんない。
B.ウー、タタリガミニナッテヤル、ナギコ-(映画「枕草子」参照のこと)
N なにいつてんだあいつ?
A.でね、見えざるものとの交流ってやつで、少年には天使のおねえちゃんが見えていて、おねえちゃんが味わえなかったいろんな楽しみごとをみせてやろうとするのさ。
N.ちょっと、アブナイかんじ。
A.まだまだ、さらにエスカレートして、今度はおねえちゃんと一体になってしまう。
D.オー、ウラヤマシイテスネー
N.まだいたのかよ。だから、そーいう意味じゃないって。
A。長い金髪のかつらをかぶって、女の子の服を着て、おねえちゃんに公園や映画をみせにいくのさ。
D.オー、コスプレ?
A.デカちゃん、お願いだから早くアメリカへ帰って!
N.歌舞伎町見学に連れてけよ。
A.いいね!
N.よってく?
M.あーあ、感動して紹介してるんだか、からかってるんだか。
N.いいかい、ミレニアム・ジユニア。これだけはいっておくが、先生とこのニッキーは、今、シリアスな話題を、独特の軽みにつつんで表現しているだけなんだ。内容は重いんだぜ。つまりだ、「死」というテーマとのつきあいかたの問題さ。
M.子どもにどう伝えるかっての?
A.それはちがうと思う。むしろ「生きる」ということを伝えるのだろうね。切り離しては考えられないことだけれど。
N.今年は、嫌な事件もあったしね。
A そうだね。まさに崇り神の時代みたいだけど、最後にあたって、挨拶はせめてカウンターテナーで、サヨナラといおう。
M.結局、季刊「ぱろる」は救えないじゃないの……。