おかえりなさい スポッティ

マーグレット・E・レイ/文 H・A・レイ/絵
中川健蔵/訳 文化出版局 1984

           
         
         
         
         
         
         
     
 これは、かの幼年文学の名作『おさるのジョージ』を描いた、レイ夫妻の本ですが、もうね、いまの子たちに薦めるには絵柄が古くさいと思うの、ちょっとね……。
 といっても、もちろん好きだよっていってくれる子だっていると思いますから、一応よんであげてください。子どもたちはとても素直にマトモにこの本を受けとめて、そうだよねって思ってくれるかもしれないし──。
 でもオトナは……特に親やセンセーその他、子どもにかかわっているすべてのオトナにはぜひとも読んでおいて戴きたい絵本です、これは──。
 だって、白ウサギの一家に一匹だけ茶色い斑点のあるスポッティ(スポット──つまり斑点よ)が生まれると……このお母さん、動揺しちゃうんだもの。なんと最初のお言葉がよ──「そんな子どもが生まれたことを知ったら、おじいさんはイヤがるかもしれないわ。かわいそうなスポッティ……」っていうのよ。これだけみごとに、親の、というより人間のだな、偽善と欺瞞を表現しているセリフって……ちょっとないわよ!
 なーにがおじいさんが……よっ! イヤがってんのは自分だろーがっ! 人のせいにするんじゃない! あげくのはてに「かわいそう……」だってさ!
 まったくかわいそうですよ、スポッティは──。こういうバカでろくでなしの親の下に生まれてきて、本当に可哀そうだよね。
 斑点があるのがなんぼのもんじゃっていうのよ! ほかの子たちはなんとも思ってないのに、家の中へ差別と偏見を持ち込むのは、このかあちゃん自身なんだ。
そのお母さんの反応をみて驚いた子どもたちが素直に、「ねえ、スポッティってヘンなの?」ときくと、バカなこというんじゃありませんっていいながら、一番ヘンだと思ってるのは自分なんだぜ〜。
 で、遂に、おじいさんの誕生日にスポッティだけ置いていく、という罪つくりをします。
 当然彼は悲しむし──健気で純情でめったにないほどいい子なのよ──だから愛する母さんのために家出するわけ。ボクがいないほうが母さんは平和なんだっていう正しい解釈をしてね。
 そうして、運がいいことに、なんと茶色い斑点のある一家に、たった一匹生まれた白ウサギのお嬢さんと出会うんですっ!
 そこんちじゃ、嘆いてんのは父さんウサギでさ、そーよね、差別と偏見と性格の悪さと視野の狭さは、なにも女の特権じゃあないもんね。
 で、この本のとっても凄いとこは、この差別された子どもたちが、親にこれだけ否定されてるにもかかわらず、しっかりと自分を創り上げてることです。
 白ウサギのホワイティちゃんの「あたし、ずっと自分のことかわいいと思っていたの」という名セリフは泣かせますね。
 でもそこまで強くても賢くても、やっぱりそう思ってくれる、自分を支持してくれる相手は“必要”なのよ。わかってくれる人が一人でもいたら、本当に、どんなに肩の上の荷物が楽になることか──。
 で、もちろんこのお話では、この二家族は知りあいになり、親二人も改心してめでたし、めでたし、となりますが、現実にはとてもこうはいかないのも事実です。
 親たちが自分の偏見にしがみつくのにはそれなりの理由があるわけで、それを手放させるのは至難の技です。くれぐれも、こいうバカなまねはなさいませんように──。
 これだけ健気で気持ちがきれいで、上等な子どもをふみつけにするような親がいたら……、私、許しませんからね!
 プンプン!(赤木かん子
『絵本・子どもの本 総解説』(第四版 自由国民社 2000)
テキストファイル化佐藤佳世