おじいちゃん

ジョン・バーニンガム

たにかわしゅんたろう訳 ほるぷ出版


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 ジョン・バーニンガムと言えば、二十年近く前、「はるなつあきふゆ」 (ほるぷ出版)という絵本に出会ったときの強烈な印象が忘れられません。大判の絵本を開くと、そこは春。巣を作る鳥や、どろんこで遊ぶブ夕、とびはねる羊。頁をめくると場面は一挙に四倍の大きさに広がり、木漏れ日に映える新緑が読者を包み込みます。草いきれが感じられる緑の中、虫捕り網を手に元気に飛び出してくるのが、ハーニンガムその人です。
 写真で見るご本人は眼光鋭く、何だか学者みたいなのですが、頭の格好はそっくりです。
 「ガンピーさんのふなあそび」(ほるぷ出版)に登場するガンピーさんもバーニンガムに似ています。子どもや動物に「乗せて」と言われるとイヤと言えず、皆を乗せてついには舟をひっくり返らせてしまう、心優しき中年男ガンピーさん。バーミンガムの絵本の、第一の魅力は、お人好しとも言えるような善意に満ちた登場人物たちでしょう。
 ちょっと偏屈そうなおじいちゃんと、やんちゃでパワフルな孫娘の、心の交流を描いた「おじいちゃん」(ほるぷ出版)は、バーニンガムの代表作です。
 久しぶりにあった孫娘にどう対せばいいものやら、「やっかいだなあ。そりゃあ孫は可愛いけれど、女の子なんて何を考えとるのかわかりゃあせんし」というつぶやきが聞こえてきそうなおじいちゃんが冒頭に描かれます。「困ったなあ」の顔がいい。そして、物語の終り近く、風邪を患って憔悴した中、ふと見せる厳しさ、人生の終焉を自覚した男が心の内をのぞかせた表情。映画で老練な役者の名演技を見るようなこの場面、「ウーン、うまいー」と稔ってしまいます。
「あしたはいっしょに アフリカへ行って、おじいちゃんは船長になってくれる?」と語る孫。けれども次の頁をめくると、主を失ったおじいちゃんの椅子と、膝を抱えて椅子をじっとみつめる孫娘がポツンと描かれているだけ。何も説明はありません。
 おじいちゃんの死とふたりの別れを、こんなに詩情豊かに描けるバーミンガムってすごい!
 ぱっと見には、誰でも描けそうな絵ですが、色鉛筆やカラーぺンを使った柔らかな色、絵の具をはじかせて作り出す美しい色面にはすごいテクニックが隠れています。テクニッシャンなのに、決して技巧に走らないところ、テクニックが前に出すぎないところが、この作家のいいところです。
 家族や友だち、動物を愛する心、自然の素晴しさ、そして何よりも、子どもが持つ豊かな想像力を、素直にさらりと描き上げるバーミンガムの世界は、日頃忘れてしまいがちな、ほんものの 「やさしさ」を私たちに思い出させてくれるようです。(竹迫祐子)
徳間書店 子どもの本だより「もっと絵本を楽しもう!」1995/3,4