北極星を目ざして

キャサリン・パターソン

岡本浜江訳 偕成社 1996/1998

犬のウィリーとその他おおぜい

ペネロピ・ライリー

神宮輝夫訳 理論社 1987/1998

           
         
         
         
         
         
         
     
極星を目ざして』は、98年度の国際アンデルセン賞を受賞したパターソンの新作だ。
 彼女の作品には、まっとうな社会から逸脱し、家族の愛に飢える少年少女が登場する事が多いが、今回も例外ではない。舞台は、まだ奴隷制度が廃止になる前のアメリカ南部。
 農場で働く少年ジップは、赤ん坊の時に、街道を行く荷馬車の後ろから落ちて孤児になったと聞かされている。
 勤勉で賢く、農場のみんなから頼りにされている少年には、新しくやって来た手に負えない暴れ者の男も心を開く。この男は、錯乱状態の時は手をつけられないが、天使のような声で賛美歌を歌うことができた。当時実在した人物がモデルだという。ジップとは、父と子のように心を通い合わせるようになる。
 やがて、ジップは学校に通うようになり、初めて物語のおもしろさに触れてとりこになる。ジップに物語の魅力を教える女の先生は、前作の『ワーキング・ガール』の主人公リディーの成長した姿である。
 ともあれ、それなりにささやかな幸せを見いだしかかったジップだったが、次第にその身辺に不吉な予兆がもたらされ始める。やがて、衝撃的な出生の秘密が暴かれ、その瞬間から、ジップに逃亡奴隷としての人生が始まる。
 少年ジップを通して、作者は人間の誇りや尊厳への賛歌と自由への希求を讃いあげる。
 アメリカが避けて通れない歴史的な主題を背景に、真摯に誠実に物語を紡ぎ出すパターソンの作家としての姿勢に脱帽。
 前作『ワーキンダ・ガール』共々読んでみると、アメリカの歴史の一断面が鮮やかに浮かび上がって、一層興味深い。
 夕ーソンの作品が、どれを読んでも、いかにもアメリカ的な匂いを放っているのに対し、『犬のウィリーとその他おおぜい』は、がらりと変わって、ユーモアたっぷりの、何ともイギリス的な一冊だ。
 舞台となるのは、赤ちゃんとその両親の住む、どこにでもありそうな一軒の家。登場人物は、人間家族だけではない。ぺットの犬、近所の猫、三家族のねずみ達、はたまた風呂の配水管に住むワラジ虫、くもといった小動物たちまでが、人間と同等のいかにもどこかにいそうなキャラクターを与えられて登場する。
 彼らが繰り広げる数々のドラマは必死で大まじめなだけに抱腹絶倒。本当にあり得るかもしれないと思わせる巧みな筆さばきで読ませる。
(末吉暁子)

MOE1999/02