あなたがもし奴隷だったら…

ジュリアス・レスター文・ロッド・ブラウン絵

片岡しのぶ訳/あすなろ書房


           
         
         
         
         
         
         
    
 圧倒的な迫力である。憎しみ、耐え、諦め、怒り、あらがう黒人奴隷たちのさまざまな表情。彫りの深い顔に刻み込まれた、幾世代にもわたる彼らの忍従と怒りの歴史が、悲しいまでの存在感で迫ってくる。一九六一年生まれの画家が、「奴隷」をテーマに七年間かけて描いた三十六点の作品の中から二十一点を選び、『奴隷とは』(岩波新書)の著者が文章をつけて構成した絵本である。

 カモメが群れ飛ぶ海原を、波にもまれながら帆船が進む。船の周囲のあちこちに人が浮かんでいる。泳いでいるのかと思うがそうではない。目を凝らすと、船の上から豆粒くらいの大きさで描かれた黒人が、海になげ込まれているのがわかる。アフリカの西海岸からアメリカ大陸に運ばれる途中で、病気になったり、死んだ黒人奴隷たちの無残な姿である。ページをめくると、暗い船倉の狭い棚に互いに鎖でつながれ、ワインボトルのように横たえられた黒人たちの黒い頭と白い足が描かれる。異様である。こうして三カ月かけて運ばれた黒人たちの生き残った者だけが奴隷市場に出されるのだ。

 黒い膚から血がほとばしるまで鞭打たれ、酷く吊るし殺される黒人奴隷の無残な姿。「ムチ打たれる者ではなく、ムチ打つ側に立ってみてほしい」と著者は言う。自分がどれだけ酷いことができるかに想像力を巡らさない限り悲劇は終わらないとも。どのページにも激しく心が揺さ振られる見ごたえのある絵本だ。(野上暁)
 
産經新聞99.03.09