雨の旅人

末谷真澄

マガジン・ハウス


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 こういうの、読みたかったんだ。『雨の旅人』(マガジン・ハウス、1200円)は、舞台も素材も国産の現代ものファンタジー。登場人物たちが次々にぶつかる大小の危機にハラハラドキドキさせられ、読みおわるとジーンと心に残る余韻がある。
 妖精とか小人とか、あるいは宇宙人でもいいけど、実在しているとはたやすく信じられないものが、自分だけに姿をあらわしてくれたら。この手のものといえばハリウッド映画というのもなんだかしゃくだな、と時々思っていたから、うれしい。 この話で小学2年生の悟の前に出現するのは、身長15pほどの年老いたサムライ。
 6年生の姉、千鶴子がスタープレーヤーを務める野球の試合で、河原の球拾いのポジションについてぼおっと一人遊びをしている悟。河原でおぼれかかったサムライを見つけて、悟は家に連れて帰る。記憶を失った小さなサムライの正体は、はたして。 「彼女には、子供の頃からずっと信じているものがあった。それは、夢や空想が何にも負けない無限の力を持っているということだった。だからこそ人間は宇宙に行けたり、コンピューターを作ったり、恋愛を実らせたりできるのだ。夢や空想こそが人間を進歩させるものなのだ」
 これは登場人物の心中を語った一節。好きだなあ、こういう感じ方。(芹沢清実)
朝日新聞ヤングアダルト招待席

テキストファイル化 妹尾良子