アブダラと空飛ぶ絨毯

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ

西村醇子訳 徳間書店

           
         
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 ダイアナ・ウィン・ジョーンズといえば、『魔女集会通り26番地』『わたしが幽霊だった時』『九年目の魔法』と、魔法を扱ったファンタジー作品を書かせたら天下一品のイギリスの作家だが、本書もジョーンズがその手腕をあますところなく発揮した、とにかく楽しい作品である。
 「空中の城2」となっているように、本書は空中の城の第二弾のわけで、これ単独でも独立して読めるが、一弾と合わせて読むと登場人物の背景などより深くわかって親しみが増す。
 第一弾は『魔法使いハウルと火の悪魔』である。第一弾の物語の舞台は、魔法が存在するインガリー国。三人姉妹の長女で十八歳のソフィーは、荒地の魔女に呪いをかけられ、九十歳の老婆に変身させられてしまう。ソフイーは呪いを解いてもらおうと、空中の城に住む、悪名高い魔法使いハウルのもとに、掃除婦としてもぐりこむ。城には、ハウルの弟子とハウルに魔力を提供している火の悪魔がいて、城の扉は、ヒースの丘、海辺の町、王の住む都、次元のちがうハウルの故郷の四か所に同時に通じている。ソフイーは、火の悪魔からこっそり取引を持ちかけられたり、弟子にたのまれわからない呪文を一緒に考えたり、訪ねてくる町の人に薬をわたしたりするうちに、ハウルもまた荒野の魔女に呪われていることを知って、ハウルと協力して魔女と戦おうとする。
 第二弾の本書にも、ハウルとソフイー、火の悪魔が登場する。ソフイーはハウルの妻になっていて、ハウルはインガリー国の王室づき魔法使いである。第二弾は空中の城に、空飛ぶ絨毯と魔神が加わり、アラビアンナイトの世界を下敷きに物語が展開する。ラシュプート国の若き絨毯商人アブダラは、旅の男から魔法の空飛ぶ絨毯を買い取る。夜、絨毯に連れていかれた庭園で、アブダラは「夜咲花」という姫に会い恋におちる。しかし二人が駆け落ちしようとした矢先、姫は魔神にさらわれてしまう。アブダラは姫の行方を探して旅にでる。
 姫の父親や砂漠の盗賊に追われながら、盗賊から手に入れたひねくれ者の瓶の中の精霊の助けをかり、仲間に加わった旅の兵士や猫の親子と緒に、アブダラはインガリー国にはいる。そこからは、行方不明のハウルを探すソフィーとともに空飛ぶ絨毯に乗って、魔神の住む空中の城をめさす。魔神たちはハウルの空中の城を奪い、そこにあらゆる国々の姫をさらってとじこめていたのだ。
 さて、この「空中の城1、2」の特徴の第一は、ガリヴァ旅行記のラピュ夕を思わせるユニークな城である。このアイデイアをジヨーンズはある学校の生徒から言われたのだという。
 第二は、登場する女性が皆元気だということである。ハウルにずけずけものを言うンフイーにしろ、気の強いソフイーの妹たちにしろ、冷静沈着な「夜咲花」にしろ、しっかり自分というものをもっている。アブダラが魔神の手から空中の城にとじこめられた姫たちを救い出すのは、たぶんに「夜咲花」をはじめ姫たちの力によるところが大きい。ジヨーンズはアラビアンナイトの「もの言う鳥と歌う木と金色の水」を読み、女性でもヒーローになれると考えたという。
 第三は、下敷きとした昔話や主人公にたいする、ジョーンズの意外性を生みだす自由な味付けである。女性が強いところは勿論のこと、「長女はなにをやってもうまくいかない」と思いこんでいるンフイーが主人公になることや、継娘と実の娘にわけへだけない、ソフィーの継母、恋人をさらわれたなかで助けにいったのは、英雄像とはほど遠いアブダラだけであったという事実、兵士が裏をかいて自分を襲わせるやり方など、いくらでも挙げられる。
 最後に、登場人物が非常に数多いのだが、その一人一人がすべておさまるべき所におさまって終わるという安心感である。アブダラの二人の花嫁の行く先や、空飛ぶ絨毯や瓶の中の精霊の正体などである。
 以上作品の特徴としてあげたところは、すべて作品の魅力でもあり、久々に堅苦しいテーマを考えずに、心からファン夕ジーを楽しむことができた。(森恵子)
図書新聞 1997/09/20