世界本のある暮らし(07)


「図書館の学校」TRC2000/10
長谷川晶子

           
         
         
         
         
         
         
         
    
    
    
 今年の5月、「スぺイン子どもの本の友だち協会」主催の『ぺレスねずみと王さまの歯』という展覧会がマドリードで開かれました。ぺレスねずみといえぱ、そうです、『ねずみとおうさま』(岩波書店、1953)で大活躍のあのねずみです。このお話、もともとは、アルフォンソ13世(1886-1941、在位1886-1931)に仕えていたイエズス会士ルイス・コロマ(1857-1915)が、幼い王の教育のために書いたものです。主人公の名ブビは、アルフォンソ13世の母で、摂政も務めていたマリア・クリスティーナ王妃が、幼い我が子につけた愛称でした。
 さて、日本の子どもたちにはおなじみのこの物語は、実はスぺインではほとんど知られていません。乳歯が抜けたときに枕の下に入れておくと、ねずみがやってきてお金や贈り物と交換してくれるという民間伝承は古くから存在しており、現在でも広<知られています。しかし、コロマ神父が書いた物語は、1911年に出版された後は忘れ去られた存在でした。今回の展覧会で再発見されたわけです。「友だち協会」では、展覧会に合わせて新しく『ぺレスねずみ』の絵本を作りました。
 「友だち協会」によると、この『歯を取りにくるねずみ』の伝承を最初に文章に書いたのはコロマ神父で、ねずみに「ぺレス」という名をつけたのも彼ではないかということです。コロマ神父が生まれたアングルシア地方にはramnperezという名前の「虫」が主人公の、まったく別の民話があるそうで、この名前が影響しているのではないかとみているそうです。
 スぺインでは読みつがれなかったコロマ神父の物語ですが、1915年にモレトン婦人によって英訳され、そこから日本に渡ってきて、私たちを楽しませています。日本の子どもたちがコロマ神父のぺレスを知っていることに、「友だち協会」の人はとても驚き、早速、日本語にも翻訳されていることを展覧会の内容に加えたのでした。展覧会は現存、スぺイン各地を巡回しているそうです。