世界本のある暮らし05

アメリカ・アリゾナ州から フラッグスタッフの子どもたち
「図書館の学校」TRC2000/05

小林恵子


           
         
         
         
         
         
         
         
         
     
 "Trick or treat !"(お菓子くれないと悪戯するよ)誰かが、玄関のドアをノックして叫んでいます。扉を開けると、「赤ずきん」の扮装をした隣のレイシーが立っていました。ハロウィーン(10月31日)の夜、子どもたちは仮装してキャンディーを貰いに近所の家々を訪ね歩きます。
 レイシーは今、小学校六年生。お父さんがドイツ系なので、このグリム童話の衣装を、お母さんに作ってもらいました。でも彼女には、イングリッシュとアイリッシュとアメリカン・インディアンの血も流れているのです。
 彼女の中に(実は多くのアメリカ人もそうなのですが)「人種の坩堝、アメリカ」が体現されているのと同じように、彼女の通う小学校の人種や民族も実に多様です。南はメキシコと接するこの州の、北にホピとディネ(ナバホ)のインディアンの「国々」を望むこの町らしく、269人の全校児童中、ヒスパニック44%、白人25%、アメリカン・インディアン23%、アフリカン・アメリカン5%、アジア系3%という構成です。
 初雪が降って暫くしてから、レイシーに招かれて行った学校のクリスマス劇も、世界中の男女一組の子どもたちが各国の衣装を着て、その国独自の贈り物をサンタクロースに持って来るというものでした。ドイツから来たグレーテル(これもグリム童話の主人公)の役に扮した彼女は、ヘンゼル役の男の子と一緒に樅の樹のクリスマス・ツリーを贈りました。彼女は小さい頃から様々な肌の色の友だちの中で多文化に接しているのです。
 レイシーはとても読書が好きで、幼稚園の頃は先生やお母さんが毎日のように絵本を読んでくれたそうです。中でも一番のお気に入りは、ドクター・スースの"Green Eggs And Ham"『緑色の目玉焼きとハム』だったとのこと(絵と一体の言葉遊びが訳しにくいためか未邦訳)。
 彼女の小学校には蔵書一万冊の図書室と毎日30分の読書の時間があると聞き、早速学校に見学を申し出ました。「いつでもどうぞ」との快諾を得て出掛けてみると、一人で本の読める子はその図書室で自由に好きな本を読み、先生の指導を必要とする子は教室で先生の読んでくれるお話を聞いていました。レイシーは図書室で仲良しの友だちと本を読んでいましたが、一番好きな本は『ハリー・ポッターと賢者の石』(J.K.ローリング 作/松岡佑子 訳/静山社)だよ教えてくれました。7巻シリーズ(第3巻まで刊行済)のこの本は、町の図書館では予約しないと借りられないくらい人気があります。私も日本から送ってもらった邦訳を読みましたが、ベストセラー本によく見られる面白さと文学的な深みの物足りなさの両面を感じました。
 "Drop Everything And Read"(読書に一時没頭)の頭文字をとって"DEAR"とよばれているこの毎日の読書の時間も、教室組は先生が質問をしたりして、読書の歓びに浸るというよりは「国語のお勉強」という感想を持ちましたが、図書室組のレイシーは、このひとときを楽しみにしていると笑顔で話していました。